東雲結子:マリオットが身軽なら、ホテル会社は全部アセットライトへ行くんでしょうか。

税理士石井:そうでもありません。アパグループのように、開発・保有・運営を強く組み合わせる企業もあります。

東雲結子:こちらは大家さんに近いですね。

税理士石井:ええ。土地と建物の価値も取り込みながら、ホテル運営の利益も狙います。

東雲結子:では、儲けも二重ですか。

税理士石井:利益の機会が二つなら、建築費、借入、人員、災害のリスクも二つです。

東雲結子:ああ、良いところだけ二重にはならないんですね。

税理士石井:だからこそ、直販と運営効率を磨き、保有コストを上回る収益を作る必要があります。

 

海外大手がアセットライト化を進める一方、日本ではアパグループのように、不動産開発、ホテル所有、運営、フランチャイズ、予約プラットフォームを組み合わせる企業があります。2025年10月23日時点で、アパホテルネットワークは1,019ホテル・13万9,937室。アパアプリは2025年10月段階で700万ダウンロードと公表されています。物件を保有しながら、顧客との接点まで自社で握る姿は、大家業に近い部分があります。

アパは「ホテル会社」であり「不動産会社」でもある

建物を保有するモデルでは、ホテル運営の利益に加え、物件価値の上昇や再開発余地を取り込めます。アパグループは、ホテルだけでなくマンション開発・管理も行い、都市部で土地取得とホテル開発を進めてきました。

大家さんも、家賃収入だけでなく、土地値、容積率、隣地取得、建替え、用途変更で価値を上げます。ホテルオーナー型企業と大家業の共通点は、運営の数字と不動産の価値を同時に見ることです。

隣地増築は、大家業でいう「一番よく分かっている土地への追加投資」

アパホテル〈渋谷道玄坂上〉では、既存棟の隣地へ新築棟を増築しました。アパは、既存ホテル隣地への増築は、人件費率などの運営コスト比を下げながら売上・利益を伸ばせるため投資効果が高いと説明しています。

これは大家業でも同じです。既存アパートの隣地、余剰駐車場、未利用容積を活用できれば、新規物件をゼロから買うより、管理・巡回・募集の共通化がしやすい。自分が一番よく知っている場所へ追加投資するのは、合理的な成長方法です。

直販は、OTA手数料を減らすだけではない

アパは公式サイト・アプリの「アパ直」を強化し、会員へポイントを付与しています。直販の目的は予約サイト手数料を減らすことだけではありません。顧客データを持ち、再訪を促し、別のホテルへ送客できることが大きいのです。

大家さんも、管理会社へ依存しすぎると、入居者がなぜ退去したか、どの設備が評価されたか、法人社宅の担当者は誰か、という情報が自社へ残りません。直接契約へ切り替える必要はありませんが、顧客データと退去理由はオーナー側でも蓄積すべきです。

「1ホテル1イノベーション」は、派手な改装だけではない

アパは各ホテルで継続的な改善を掲げています。渋谷道玄坂上では、椅子の生地を布からビニルレザーへ変更し、汚れを拭き取りやすくするという小さな改善も紹介しました。

大家業でも、数百万円のリノベーションだけが改善ではありません。清掃しやすい床材、故障の少ない水栓、交換部品を統一した照明、写真映えする一面だけのアクセント。小さな改善を全物件へ横展開できれば、累積効果は大きくなります。

保有型の弱点は、相場が悪くても資産から逃げられないこと

アセットライト企業は、ホテルの建物価値が下がっても、原則として所有者ほど直接の影響を受けません。保有型は、借入返済、固定資産税、大規模修繕を抱え続けます。

だから、アパ型を参考にするなら、強気の拡大だけではなく、直販、標準化、狭い客室でも満足度を作る設計、運営効率までセットで見る必要があります。建物を持つだけなら大家ですが、運営を磨いて初めてホテル企業に近づきます。

視点 アパ型ホテル 賃貸大家への応用
資産 開発・保有・増築 土地値・隣地・余剰容積
運営 標準化・多店舗展開 設備仕様・修繕ルールの統一
集客 アパ直・会員アプリ 法人顧客・紹介・退去理由の蓄積
改善 1ホテル1イノベーション 小さな改善の全棟横展開
リスク 借入・建築費・人件費 借入・修繕・空室・地価

 

参考資料

アパホテル〈鳥取駅前〉開業(2025年10月23日)

アパグループ 数字で見るアパグループ(2025年10月情報)

アパホテル〈渋谷道玄坂上〉増築・隣地政策

アパ直ポイント施策