東雲結子:マリオットやヒルトンは、世界中にホテルを持っている大地主なんですよね。

税理士石井:実は、建物を自社で持たず、ブランドや運営を提供するホテルが大半です。

東雲結子:えっ。ホテル会社なのに、ホテルを持っていないんですか。

税理士石井:正確には、ごく一部は所有しますが、主力は運営受託とフランチャイズです。

東雲結子:では、建築費も土地代もオーナーが出してくれる?

税理士石井:そうです。ホテル会社はブランド、予約網、会員、運営ノウハウを提供し、手数料を得ます。

東雲結子:うーん、大家さんより身軽ですね。

税理士石井:その代わり、ブランド価値を落とせば契約が増えません。資産ではなく、仕組みと信用が商品なんです。

 

世界的なホテル会社を「巨大な不動産オーナー」と考えると、実態を見誤ります。マリオット・インターナショナルは、2023年末時点でシステム全体の宿泊施設のうち、自社で所有または賃借するものは1%未満と説明しています。ヒルトンも2024年末時点で、全8,342施設のうち所有・賃借は50施設にとどまり、残りの大半は管理受託またはフランチャイズです。これは、土地と建物へ多額の資金を入れる大家業とは、かなり違う成長方法です。

建物を持つ人と、ブランドを貸す人を分ける

ホテル事業には、大きく分けて三つの立場があります。土地・建物を持つオーナー、現場を運営するオペレーター、ブランドと予約網を提供するチェーン本部です。1社が全部を担う場合もあれば、三者が別々の場合もあります。

マリオットのフランチャイズ契約では、ブランドや予約・マーケティング等を提供し、継続的なロイヤルティフィーを受け取ります。同社の2023年年次報告書では、ホテルのフランチャイズ料は一般に客室売上の4~7%、一部フルサービスブランドでは飲食売上の最大4%と説明されています。建築費を負担せず、売上の一部を継続的に受け取る構造です。

ヒルトンは、50施設の所有・賃借で8,000施設超を動かす

ヒルトンの2024年末のホテル網は8,342施設です。そのうち所有・賃借は50施設で、割合は約0.6%。管理受託とフランチャイズ・ライセンスが圧倒的多数です。

このモデルでは、新しいホテルを1棟増やすたびに、自社が土地取得費や全建築費を負担する必要がありません。第三者オーナーの資金を使いながら、自社のブランド網を拡大できます。2024年には約9万8,400室を新規開業し、客室数の純増率は7.3%でした。

大家業はアセットヘビーだからこそ、値上がり益と担保価値を持てる

では、ホテル会社のほうが大家さんより有利なのでしょうか。そう単純ではありません。

大家さんは土地・建物を持つため、地価上昇、元金返済による純資産増加、担保価値を得られます。運営会社が成功しても建物価格の上昇はオーナー側へ残ります。一方、アセットライト企業は大きく成長しやすい反面、ブランド契約が切れれば、そのホテルからの手数料収入は失われます。

メガ大家が学べるのは「所有と運営を分ける」こと

数棟のうちは、自分の法人が物件を持ち、同じ会社が管理判断も行って問題ないでしょう。しかし、数十棟、数百戸へ増えると、所有、運営、集客、修繕、データ管理を全部同じ人が抱えるのは難しくなります。

そこで、資産保有会社は物件と借入を管理し、運営会社は入居募集、清掃、顧客対応、設備提案を担当する。さらに、家具付き賃貸や高齢者住宅などは、商品ブランドを別に作る。ホテル企業のように機能を分けると、どの部門が利益を生み、どこでコストが増えているかが見えます。

ただし、管理会社へ丸投げする話ではない

ホテルのフランチャイズ本部は、看板を貸して終わりではありません。予約システム、会員制度、運営基準、監査、マーケティングを提供します。大家さんが管理会社へ業務を任せる場合も、報告様式、承認額、募集KPI、修繕ルールを決めなければ、単なる丸投げになります。

アセットライトの本質は、資産を持たないことではなく、再現可能な仕組みを持つことです。大家業でも、仕組みがなければ物件を増やすほど、自分の時間だけが不足します。

比較 マリオット・ヒルトン型 一般的な大家業
主な投下資本 ブランド・システム・人材 土地・建物・自己資金
主な収入 管理料・FC料・予約関連料 家賃・売却代金
拡大速度 第三者資本を使い速い 融資・自己資金に制約
主なリスク ブランド低下・契約解約 空室・修繕・地価・金利
強み 資本効率・世界展開 担保価値・値上がり益・元金減少

 

参考資料

Marriott International 2023 Annual Report

Hilton 2024 Annual Report / Form 10-K

Hilton 2024 Full Year Results