東雲結子:ホテルは単価を上げられるから、賃貸より強いんですよね。

税理士石井:需要が強いときはそうです。でも、需要が急に止まると売上もすぐ落ちます。

東雲結子:賃貸は家賃を上げにくい代わりに、急にはゼロになりにくい。

税理士石井:その理解でよいと思います。ホテルはアクセルが強く、賃貸はエンジンが止まりにくい。

東雲結子:では、大手企業が両方持つのは、景気の波をならすためですか。

税理士石井:それもあります。三井不動産は賃貸と施設営業を持ち、共立メンテナンスは寮とホテルを持ちます。

東雲結子:伸びる事業だけでなく、支える事業も必要なんですね。

税理士石井:はい。大家さんも、すべての物件を高収益・高変動へ寄せないほうが、長く持ち続けやすくなります。

 

ホテルと賃貸のどちらが優れているかは、景気局面によって答えが変わります。ホテルは需要が強いと客室単価をすぐ上げられますが、旅行・出張需要が減ると売上も短期間で落ちます。賃貸は家賃改定が遅い反面、契約期間中の収入は比較的安定します。大手不動産会社や共立メンテナンスが複数の事業を持つのは、成長機会だけでなく、収益の波を分散する意味があります。

三井不動産の賃貸と施設営業は、利益の出方が違う

三井不動産の2025年3月期は、賃貸セグメントの営業収益8,723億円、事業利益1,764億円。施設営業セグメントは営業収益2,241億円、事業利益386億円でした。施設営業にはホテルだけでなく東京ドーム等も含まれるため、純粋なホテル比較ではありませんが、保有賃貸と日々の施設運営が別の収益構造として管理されていることが分かります。

賃貸は契約に基づく安定収入、施設営業は来場・宿泊需要を取り込む成長収入です。

共立メンテナンスは、寮が土台、ホテルが成長ドライバー

共立メンテナンスは、寮事業を基幹事業とし、ホテル事業を成長ドライバーと位置付けています。寮は学校・企業との長期関係が需要を支え、ホテルは観光・インバウンド・単価上昇を取り込みます。

大家さんのポートフォリオも、駅近の安定単身物件、法人社宅、地方の高利回り、宿泊・家具付きなど、役割を分けるとよいでしょう。全部を同じリスクにする必要はありません。

ホテル100%は、良い年も悪い年も大きい

説明用に、賃貸NOI70、ホテル利益30、合計100のポートフォリオを考えます。景気後退で賃貸が5%減、ホテルが50%減なら、賃貸66.5、ホテル15、合計81.5。全体の減少は18.5%です。

ホテルだけなら50%減、賃貸だけなら5%減です。ホテルを入れることで平常時の成長力は上がりますが、比率を高くしすぎると変動が大きくなります。

賃貸の安定性にも、地域集中という弱点がある

賃貸だから安全とは限りません。同じ都市、同じ入居者層、同じ築年数へ集中していれば、人口減少、工場撤退、災害、修繕時期の集中で同時に悪化します。

ホテルと賃貸を組み合わせることだけが分散ではありません。地域、顧客、契約期間、借入満期、運営会社を分けることも重要です。

最も大切なのは、悪い年にも現金が残る比率

ホテル事業を始めるか、家具付き短期賃貸を増やすかを考えるとき、最高売上だけでなく、稼働率が半分になった年を計算します。その赤字を、普通賃貸の家賃で何か月支えられるかを見るのです。

大手企業の事業ポートフォリオから学べるのは、成長分野へ投資しながら、安定収益を手放さない姿勢です。高収益だけを並べるより、低い変動で経営を支える物件を残すほうが、次の投資機会を待てます。

景気悪化の説明用モデル 通常 悪化後
賃貸NOI 70 66.5(5%減)
ホテル利益 30 15(50%減)
合計 100 81.5
全体の減少率 – 18.5%

 

参考資料

三井不動産 セグメント業績推移(2025年3月期)

共立メンテナンス 事業と特徴

東急不動産ホールディングス 2025年3月期業績

観光庁 宿泊旅行統計調査