東雲結子:先生、中華街で春節の飾りを見てきました! 真っ赤な提灯がずらりで、気分はすっかりお祝いです。帰りの電車では、中国の会社の「目論見書」を読んでいました。
税理士石井:提灯の帰りに目論見書とは、ずいぶん渋い寄り道ですね。どこの会社ですか?
東雲結子:長鑫科技(CXMT)です。パソコンやスマホのDRAMを作っていて、2025年1〜9月の売上が前年同期比98%増! 上場したら、爆竹みたいに株価が鳴り響きますよね。
税理士石井:うーん、爆竹は鳴ったあとに、煙と紙くずが残りますからね。目論見書のページをもう少しめくると、同じ1〜9月の純損益は59.8億元の赤字です。
東雲結子:えっ、売上がほぼ倍なのに赤字? 肉まんを倍売っても、蒸し器の代金で消えていくお店みたいです……。
税理士石井:いい例えですね。この会社は合肥と北京に大きな工場を3つ持っていて、2022年と2023年は研究開発費だけで売上の5割を超えていました。
東雲結子:売上の半分を研究に! 私なら、肉まんの売上の半分で新しい餡の試作を続けて、試食で全部食べてしまいます。
税理士石井:ははは、試食係が東雲さんだと、研究開発費がそのまま食費に化けますね。大家業でいえば、建てたばかりで入居が急に増えてきた大型マンションです。部屋は埋まり始めたけれど、建築費の重さで、まだ手取りは赤字なんです。
東雲結子:なるほど……。じゃあ上場したら、満室になる前に一部屋押さえておけばいいんですね!
税理士石井:それがですね、まだ上場前で、日本の個人が持てる株はありません。それに、部屋を押さえる前に、満室になるのかを数字で確かめるのが先です。だから今回は、目論見書をアナリストの目で読んで、上場したら何を確かめるか、そしてこの会社の伸びが、すでに上場しているメモリー各社の株にどう響くかを見ていきましょう。
連載の第8回は、中国のDRAMメーカー、長鑫科技(CXMT)です。2025年12月30日、上海証券取引所の科創板(ハイテク企業向けの市場)への上場申請が受理され、目論見書が公表されました。カットオフ(この連載の情報の締め切り、2026年1月31日)の時点ではまだ非上場で、株価はありません。
CXMT(長鑫科技)の目論見書によると、2025年1〜9月の営業収入(売上)は320.8億元(人民元)で前年同期比97.8%増、それでも純損失は59.8億元でした。この回は、売上の伸び、続く赤字、研究開発の重さ、プラスに転じた営業CF、株主の顔ぶれ、米国の規制を順に読みます。NAND型フラッシュメモリーの長江存儲(YMTC)にも、米国の規制の文脈で触れます。
材料は、目論見書と、それを伝えた中国の報道、米国の官報と法律事務所の解説、調査会社の公表資料です。後半では、まだ持てない株を株式投資の銘柄選びの目線でどう読むか、そしてCXMTの伸びが上場しているメモリー各社の株にどう響くかを、アナリストの目線で整理します。
| この記事の要点 | 根拠となる数字 |
| 売上は2年で急拡大し、2025年1〜9月は前年同期のほぼ2倍 | 営業収入90.9億元(2023年)→241.8億元(2024年)、2025年1〜9月は320.8億元(前年同期比+97.8%) |
| 赤字は縮んでいるが続いている。黒字化は会社の見込みで2026年か2027年 | 純損失192.2億元(2023年)→59.8億元(2025年1〜9月)、純利益率−18.6% |
| 研究開発の重さが下がり、営業CFはプラスに転じた | 研究開発費÷売上51.4%(2023年)→23.7%(2025年1〜6月)、営業CF−72.7億元(2023年)→+69.0億元(2024年) |
| 銘柄選びの目線:まだ持てない株。上場時は赤字の成長株の値付けと株数の増え方、他社にとっては汎用DRAMの供給の変数 | 非上場(2025年12月30日に上場申請が受理)、新株は最大106.2億株、DRAMシェア5%(2025年7〜9月、Counterpoint、二次資料) |
CXMT(長鑫科技)は、Omdiaの集計で生産能力・出荷量とも中国1位・世界4位のDRAMメーカー
CXMTが作るのはDRAMです。目論見書によると、合肥と北京に12インチのウエハーを使うDRAM工場を3つ持っています。目論見書が引用する調査会社Omdiaの集計では、生産能力と出荷量で中国1位・世界4位です。
製品は、目論見書を伝えた中国の報道機関、澎湃新聞(2025年12月31日)によると、パソコンやサーバー向けのDDR4・DDR5と、スマホなど向けの低消費電力品LPDDR4X・LPDDR5/5Xです。
顧客として同じ報道が挙げるのは、阿里雲(アリババクラウド)、字節跳動(バイトダンス)、騰訊(テンセント)、聯想(レノボ)、小米(シャオミ)、伝音(トランシオン)、栄耀(オナー)、OPPO、vivoです。中国のクラウド事業者とスマホ・パソコンのメーカーが並びます。顧客ごとの売上の比率は、この回で参照した資料にはありません。
技術の面では、分解調査会社のTechInsightsが2025年初めのブログで、CXMTの「G4」と呼ばれる世代のDDR5を、市販のDDR5-6000のメモリーモジュールで確認したと報告しています。この先端世代のDRAMが市場で見つかったのは初めてだ、という内容です。
一方で、この回で読めた範囲の目論見書には、HBMの記述がありませんでした。サムスン電子、SKハイニックス、マイクロン・テクノロジー(以下マイクロン)が競うAI向けのHBMは、CXMTの数字の中には見えない、ということです。製品の顔ぶれから見る限り、CXMTの主な土俵は汎用のDRAMだと私は読んでいます(当ブログの見方)。
用語メモ:DRAM=計算中のデータを一時的に置くメモリー。DDR4・DDR5=パソコンやサーバー向けの標準的なDRAMの規格で、数字が大きいほど新しい世代。LPDDR=スマホなど向けの低消費電力のDRAM。HBM(広帯域メモリー)=DRAMを積み重ねて高速にしたメモリーで、AIの計算に使われる。ウエハー=半導体を作る円盤状の基板。
目論見書は審査前の「申報稿」で、2025年1〜9月の数字は監査ではなくレビュー
目論見書は、株式を募るときに会社が事業や財務、リスクを投資家に説明する書類です。今回公表されたのは、上海証券取引所に審査を申請した段階の「申報稿」(ドラフト)で、最終版ではありません。
数字を読む前に、三つの注意があります。一つ目は会計基準です。中国本土の上場申請なので中国の企業会計準則によると推定していますが、基準の名前は、この回で読めた範囲の目論見書では確認できていません。監査人はデロイトです。
二つ目は期間です。2022〜2024年は1〜12月の通期ですが、最新の2025年は1〜9月の9か月で、しかも監査ではなくレビュー(審閲)を受けた数字です。親会社株主に帰属する純利益、営業CF、研究開発費の比率は、この回のデータでは2025年1〜6月までしか追えません。
三つ目は利益の範囲です。目論見書には、子会社のほかの株主の分も含む「純利益」と、CXMTの株主に帰属する「親会社帰属純利益」があります。2025年1〜9月は前者しか取れていないので、期間をそろえて比べるときは非支配株主分を含む純利益を使います。
報道の中には、2025年の通期の利益見通しを伝えたものもあります。ただ、この回で読めた範囲の目論見書には記載が見つからず、数字同士にも食い違いがあるため、この回では使いません。分からない数字は分からないまま置いておく。目論見書を読むときの、いちばん大事な作法だと思います。
上場で新しく発行する株は最大106.2億株です。報道によると調達予定額は295億元で、円にすると約6,522億円(2026年1月30日の為替レート1元22.11円で当ブログが換算)。使い道は量産ラインとDRAMの技術の改良、先端技術の研究開発と伝えられています。
用語メモ:目論見書=株式の募集にあたり、会社が事業・財務・リスクを投資家に説明する書類。科創板=上海証券取引所のハイテク企業向けの市場。申報稿=取引所に審査を申請した段階の目論見書。レビュー(審閲)=監査より手続きを絞った財務諸表の確認。非支配株主=連結している子会社の、親会社以外の株主。
売上は2024年に241.8億元へ、2025年1〜9月は9か月で前年1年分を3割上回った
| 億元(%) | 2022年 | 2023年 | 2024年 | 2025年1〜6月 | 2025年1〜9月 |
| 営業収入 | 82.9 | 90.9 | 241.8 | 154.4 | 320.8 |
| 前年比(%) | ― | 9.7 | 166.1 | ― | 97.8 |
| 純利益(非支配株主分を含む) | −91.7 | −192.2 | −90.5 | −40.9 | −59.8 |
| 純利益率(%) | −110.7 | −211.6 | −37.4 | −26.5 | −18.6 |
| 親会社帰属純利益 | −83.3 | −163.4 | −71.4 | −23.3 | ― |
| 同(非経常的な損益を除く) | −86.3 | −167.5 | −78.7 | −23.9 | ― |
| 営業CF | −19.6 | −72.7 | 69.0 | 42.5 | ― |
| 研究開発費÷売上(%) | 50.6 | 51.4 | 26.2 | 23.7 | ― |
※長鑫科技の目論見書(科創板への上場申請、申報稿、2025年12月30日受理)の連結値。万元を億元に換算。2022〜2024年は1〜12月。2025年1〜9月はレビュー済みで監査ではない。2025年1〜9月の前年比は前年同期(162.2億元)との比較で目論見書の記載。2023・2024年の前年比と純利益率は当ブログの計算。「―」はこの回のデータにない値。
売上(中国の決算書でいう営業収入)は、2022年の82.9億元から2023年は90.9億元と9.7%増にとどまり、2024年に241.8億元へ166.1%増えました。業界団体WSTSの集計では、2024年の世界のメモリー市場は79.3%増です(2025年12月2日公表)。CXMTは市場の2倍を超える率で伸びた計算です(当ブログの計算。売上の範囲が違うので目安)。
2025年1〜9月は320.8億元で、前年同期の162.2億元から97.8%増です。9か月で、2024年の1年分を32.7%上回りました(当ブログの計算)。円にすると約7,094億円です(2026年1月30日のレートで当ブログが換算した参考値で、当時のレートではありません)。
1〜9月から1〜6月を引くと、7〜9月の3か月だけで売上は166.5億元です(当ブログの計算)。1〜6月の半年分154.4億元を、3か月で上回りました。調査会社TrendForceは、汎用DRAMの契約価格が2025年7〜9月に前期比10〜15%上がると予測していました(2025年7月7日)。7〜9月の急増は、この値上がりの局面と時期が重なります(当ブログの見方)。

図の上段は営業収入の棒で、2022年82.9億元、2023年90.9億元、2024年241.8億元、2025年1〜9月320.8億元です。2025年の棒の左にある細い灰色の棒は、比べる相手の2024年1〜9月の162.2億元。半分ほどの高さで、前年同期のほぼ倍になったことが一目で分かります。
下段は純利益(マイナスは損失)で、2023年の192.2億元の損失がいちばん深い谷、2025年1〜9月は59.8億元まで浅くなりました。いちばん下の行は研究開発費÷売上で、50.6%、51.4%から26.2%、23.7%(2025年は1〜6月)へ下がっています。
赤字は2023年の192.2億元が最も深く、2025年1〜9月は59.8億元まで縮んだ
純損失は、2022年の91.7億元から2023年に192.2億元へ約2.1倍に膨らみました(当ブログの計算)。売上が9.7%しか伸びなかった年です。WSTSの集計では、2023年は世界のメモリー市場が28.9%縮んだ年でもありました(2024年12月3日公表)。
2024年は売上が急増し、純損失は90.5億元と半分以下になり、2025年1〜9月は59.8億元です。純利益率は2023年のマイナス211.6%から、2025年1〜9月はマイナス18.6%まで縮みました。7〜9月の3か月だけでは、純損失18.9億元、純利益率マイナス11.4%で、1〜6月のマイナス26.5%から赤字の幅が縮んでいます(当ブログの計算)。
黒字化について、目論見書は「2026年または2027年に黒字化を実現できる見込み」(目論見書の中国語を当ブログが訳出)としています。2026年の黒字化は、販売単価(ASP)と月ごとの出荷量しだいだとも説明しています。会社自身が挙げる黒字化の条件は、DRAMの値段と量だということです。
ここで、二つの純利益の差を見ておきます。2024年の純損失90.5億元のうち、CXMTの株主に帰属するのは71.4億元で、残りの19.1億元は子会社のほかの株主(非支配株主)の分です。2025年1〜6月は40.9億元のうち17.6億元、約43%が非支配株主の分でした(当ブログの計算)。
子会社に外部の出資者が大きく入っていることをうかがわせる数字です(当ブログの見方)。共同で建てた建物の赤字を、出資の割合で分け合う形に近く、上場で株主になる人の取り分は、親会社帰属の数字で考える必要があります。
目論見書は、一時的な損益(非経常的な損益)を除いた親会社帰属純利益も示しています。2024年は78.7億元の赤字で、除く前の71.4億元より7.3億元大きい赤字です。2022年から2025年1〜6月まで、除いた後のほうが毎期赤字が大きく、一時的な利益が赤字を少し小さく見せていました(当ブログの計算)。
用語メモ:純利益率=純利益÷売上。非経常的な損益=本業と関係の薄い一時的な損益。ASP(平均販売単価)=売上を出荷量で割った、1単位あたりの平均の値段。
研究開発費は売上の5割から2割台へ、営業CFは2024年にプラスへ転じた
研究開発費÷売上は、2022年50.6%、2023年51.4%と、売上の半分を超えていました。2024年は26.2%、2025年1〜6月は23.7%です。比率と売上から逆算すると、研究開発費の額は2022年の約42億元から2024年の約63億元へ、約1.5倍に増えています(当ブログの概算)。比率が下がったのは、額を減らしたからではなく、売上がそれ以上に伸びたからです。
この連載で取り上げる上場7社の研究開発費÷売上の中央値は11.3%です(各社の最新通期、一部は9か月の値)。CXMTの2025年1〜6月の23.7%は、その約2倍の重さです(当ブログの計算。期間も費用の範囲も違うので目安)。
営業CF(本業で出入りした現金)は、2022年に19.6億元、2023年に72.7億元のマイナスでしたが、2024年に69.0億元のプラスへ転じ、2025年1〜6月も42.5億元のプラスでした。2024年は純損失90.5億元なのに、本業の現金は69.0億元入ってきた計算です。
帳簿の赤字と現金がこれほど違うときは、一般に、減価償却費のように現金の出ていかない費用が大きく効いています。建物の減価償却で帳簿は赤字でも、家賃の現金は口座に入る大家と同じ形です。ただ、CXMTの減価償却費の額はこの回のデータにありません(当ブログの見方)。
設備投資の額もこの回のデータにはないので、FCFは計算できません。工場を3つ持つ会社では、設備投資を払った後に現金が残るかが本当の勝負どころです。目論見書を読み進めるなら、ここがいちばん確かめたい数字だと私は考えます(当ブログの見方)。
| 億元(%) | 2022年末 | 2023年末 | 2024年末 | 2025年6月末 | 2025年9月末 |
| 総資産 | 1,476.9 | 1,927.6 | 2,716.0 | 2,899.0 | 3,028.7 |
| 親会社帰属の資本 | 496.7 | 356.0 | 414.2 | 465.5 | 493.6 |
| 親会社帰属の資本÷総資産(%) | 33.6 | 18.5 | 15.3 | 16.1 | 16.3 |
※目論見書の連結値。比率は当ブログの計算で、非支配株主の持分を含まない。2025年9月末はレビュー済みの値。
総資産は、2022年末の1,476.9億元から2025年9月末の3,028.7億元へ、約2.05倍になりました(当ブログの計算)。親会社帰属の資本は493.6億元で、総資産に対する割合は16.3%です。非支配株主の持分を含まない値なので、資本全体の比率はこれより高くなりえます。
気になるのは、赤字なのに資本が増えていることです。2024年は親会社帰属で71.4億元の赤字でしたが、親会社帰属の資本は356.0億元から414.2億元へ58.2億元増えました。損失以外の要因で約130億元増えた計算です(当ブログの計算)。その中身が増資なのかどうか、金額の内訳は、この回で読めた範囲では確かめられていません。
用語メモ:営業CF(営業キャッシュ・フロー)=本業で出入りした現金。設備投資=工場や装置への投資。FCF(フリー・キャッシュ・フロー)=営業CFから設備投資を引いた、自由に使えるお金の目安。減価償却=建物や装置の取得費を、使う年数に分けて費用にする処理。
株主には国の半導体ファンドと地名を冠した株主が並び、支配株主はいない
澎湃新聞によると、5%を超える株主は、清輝集電21.67%、長鑫集成11.71%、大基金二期8.73%、合肥集鑫8.37%、安徽省投7.91%です。会社には支配株主も実質的な支配者もいない、とされています。いちばん大きい株主でも、持分は2割強です。
大基金二期は、中国の国の半導体投資ファンド(国家集成電路産業投資基金)の第2期の通称です。ほかにも、合肥や安徽省といった地名を冠した株主が並びます。ただ、それぞれがどんな出資者の会社なのかは、この回の資料では確かめていません。
株式投資の目線で大事なのは、ここからです。国のファンドが入った会社では、株主としての利益と、産業政策のような目的が、いつも同じ向きとは限りません(当ブログの見方)。自治体も出資した再開発ビルの区分を持つと、管理組合の議決が収益だけで決まるとは限らないのと似ています。
上場で新しく出す株は最大106.2億株です(需要に応じた追加の発行枠を除く)。目論見書の上場後の株数の上限708.2億株から逆算すると、上場前の株数は約601.9億株で、株数は最大で約17.6%増えます(当ブログの計算)。1株あたりの価値がどれだけ薄まるか(希薄化)は、公開価格しだいです。報道ベースの調達予定額295億元は、2025年9月末の親会社帰属の資本493.6億元の約6割にあたります(当ブログの計算)。
米国では国防総省の1260Hリストに載り、Entity Listへの掲載は確認できていない
CXMTは2025年1月2日の更新で、米国防総省の「1260Hリスト」(中国軍事企業のリスト)に加えられました。法律事務所Crowell & Moringの解説(2025年1月9日)によると、2023会計年度の国防権限法(NDAA)5949条により、2027年12月23日から、米国政府がCXMTの半導体製品を調達・使用することが禁じられます。
一方、米商務省のEntity List(輸出規制の対象リスト)については、この回で参照した資料にCXMTの名前は見当たりませんでした。2024年12月に140団体を加えた規則の要約(法律事務所Covingtonの解説)にも出てきません。ただし、リスト全体と照らし合わせたわけではないので、「載っていない」とは言い切れません。
国防総省のリストと商務省の輸出規制のリストは、別のものです。CXMTについてこの回で確かめられたのは、前者への掲載と調達禁止まで、ということです。
用語メモ:1260Hリスト=米国防総省が公表する、中国軍事企業とみなした会社のリスト。NDAA(国防権限法)=米国の国防予算と関連の制度を定める法律。Entity List=米商務省が輸出規制の対象とする団体のリスト。
長江存儲(YMTC)は2022年12月からEntity Listに載り、財務の数字は見当たらない
中国のメモリーメーカーとして、もう一社押さえておきたいのが、NAND型フラッシュメモリーの長江存儲(YMTC)です。YMTCは2022年12月16日の発効でEntity Listに加えられました(2022年12月19日の官報)。米国の輸出管理規則(EAR)の対象となる全品目に許可が要り、審査は原則として不許可の扱いです。東京の日本法人も同時に加えられています。
技術の面では、TechInsightsが、YMTCの「Xtacking4.x」と呼ぶ技術による1テラビットのNANDが、市販のSSDに搭載されて市場に出たのを初めて確認したと報告しています。TrendForceは2025年11月13日の発表で、NANDへの投資をめぐり、DRAM事業を持たないキオクシア・サンディスクとYMTCが、市場での位置を高めるために「the most assertive strategies」(最も積極的な戦略)を取っていると書きました。ただ、YMTCの数字は示していません。
YMTCは非上場で、財務の数字はこの回で参照した資料に見当たりませんでした。決算書で読める会社ではない、というのが今の時点の結論です。
用語メモ:NAND型フラッシュメモリー=電源を切ってもデータが消えないメモリー。SSD=NANDを使った記憶装置。EAR(米国輸出管理規則)=米国の技術や部品を使った品目の輸出を管理する規則。
DRAMのシェアは第三者の推計で4〜5%、上位3社とはまだ大きな差
CXMTの世界シェアは、調査会社によって数字も出し方も違います。目論見書が引用するOmdiaの売上ベースの集計では、2025年4〜6月が3.97%、同じOmdiaの2024年の集計は、サムスン電子40.35%、SKハイニックス33.19%、マイクロン20.73%です。
調査会社Counterpointの2025年7〜9月の推計では、SKハイニックス34%、サムスン電子33%、マイクロン26%に対し、CXMTは5%、南亜科技(ナンヤ・テクノロジー)が2%でした。CXMTは1年前の2024年7〜9月の3%から上がっています。記者Mark LaPedusの記事(2025年12月24日)が伝えた、二次資料による数字です。
一方、TrendForceのDRAM売上ランキングの発表文(2024年10〜12月期から2025年7〜9月期の4本)には、CXMTの名前が出てきません。ランキングの表は画像で読めていないため、表にCXMTがいるかどうかは分かりません。どの数字も第三者の推計で、出し方の違いを踏まえて読む必要があります。
株式投資の目線では、CXMTは「まだ持てない株」。上場したら確かめたいこと
ここからは、目論見書の数字を株式投資の銘柄選びにつなげます。まず前提として、CXMTはカットオフ時点で非上場で、市場で売買できる株はありません。
もし上場すれば、その株価が主に映すのは、汎用DRAMの値段と出荷の伸びだと私は見ています(当ブログの見方)。会社自身が、2026年の黒字化は販売単価と月ごとの出荷量しだいだと説明しているからです。そこに、米国の規制と、国の半導体ファンドが入った株主構成という、ほかのメモリー株にない要素が重なります。
株価と利益の向きを比べようにも、CXMTには株価がありません。参考になる上場7社の2025年の株価の騰落率は、中央値で274.4%(サンディスクは2025年2月の上場初日から)、南亜科技は559.8%でした。南亜科技の2025年12月期(2025年1〜12月、会社の自社集計で未監査)の営業利益率は7.9%でも、10〜12月期は39.1%です。株価は直近の急回復とその先を映していると読めます(当ブログの見方)。
CXMTに値がつくときも、こうした比べられる株の水準に引っ張られやすいと私は考えます。赤字の会社ではPER(株価÷1株あたり利益)は計算できず、物差しはPBR(株価÷1株あたり純資産)や売上に対する時価総額になります。上場7社のPBRの中央値は5.94倍です(2026年1月30日の終値、当ブログの計算)。
ただし、上場の調達で資本が大きく増えるので、上場前の資本493.6億元で測った倍率はそのまま使えません。どの倍率がつくかは、黒字化が2026年か2027年に本当に来るかをどう見るかで変わります(当ブログの見方)。FCF利回りや株主還元利回りも、今は計算できません。
株数の増え方も確かめたい点です。新株は最大106.2億株で、上場前の約601.9億株に対して株数は最大で約17.6%増え、上場後の株数の15.0%を新株が占めます(当ブログの計算)。共有物件でいえば、今の持分の2割近い新しい出資者を迎える形です。株数と公開価格を見てから1株あたりの数字を測るのが順番です(当ブログの見方)。
利益の振れは大きい会社です。純利益率は2023年のマイナス211.6%から、2025年1〜9月のマイナス18.6%まで動き、データのある期間に黒字の期は一つもありません。上場7社でも、年次の営業利益率の振れ幅の中央値は37.0%ポイントあります。
株価が動くきっかけは、まず次に示される数字、とくに2025年の通期の数字です。次にDRAMの契約価格で、TrendForceは2026年1〜3月の汎用DRAMの契約価格を前期比55〜60%の値上がりと予測しています(2026年1月5日)。会社が黒字化の条件に挙げる販売単価は、まさにここです(当ブログの見方)。
下振れのリスクは三つあると考えます。一つ目は価格の反転です。華邦電子(ウィンボンド)の焦佑鈞会長は2025年10月、上昇の循環は始まったが、2年後には下降の循環も来ると語ったと報じられています(二次資料:鉅亨網、2025年10月19日)。売上が9.7%増にとどまった2023年に純損失が約2.1倍になったように、市況が悪い年の赤字の広がり方は大きい会社です(当ブログの見方)。
二つ目は政策で、1260Hリストへの掲載と米国政府の調達禁止は決まっていて、Entity Listの扱いは確認できていません。三つ目は数字そのものの確かさで、最新の9か月は監査ではなくレビューの値、会計基準の名前も確認できていません。
用語メモ:PER(株価収益率)=株価÷1株あたり利益(EPS)。PBR(株価純資産倍率)=株価÷1株あたり純資産。時価総額=株価×株数。希薄化=新株の発行で1株あたりの利益や純資産が薄まること。中央値=値を小さい順に並べた真ん中の値。
| 銘柄選びで確かめる点 | この会社の数字(時点) | 当ブログの見方 |
| 上場と保有の可否 | 非上場(2025年12月30日に科創板の上場申請が受理) | 市場で売買できる株はまだない |
| 売上の伸び | 営業収入320.8億元、前年同期比+97.8%(2025年1〜9月、レビュー) | 2024年は市場の伸びを上回った。通期の数字はまだない |
| 赤字の縮み方 | 純利益率−211.6%(2023年)→−18.6%(2025年1〜9月) | 黒字化は会社の見込みで2026年か2027年。条件は値段と量 |
| 現金の流れ | 営業CF+69.0億元(2024年)、+42.5億元(2025年1〜6月) | 設備投資の額が見えず、FCFは計算できない |
| 株主と株数 | 5%超の株主5者(最大21.67%)、支配株主なし、新株は最大106.2億株 | 上場前は約601.9億株。株数は最大で約17.6%増える |
| 米国の規制 | 1260Hリスト(2025年1月2日の更新)、2027年12月23日から米国政府の調達禁止 | Entity Listは確認できず。政策が前提を左右する |
投資の目的に当てはめると、配当の利回りを物差しにする人に向く段階の会社ではありません。赤字が続き、黒字化を目指している途中だからです(当ブログの見方)。値動きの大きさ、米国の政策、株主構成という三つの不確かさを受け入れたうえで、汎用DRAMの成長と値段の波に乗る性格の株になると私は見ています。
日本の個人にとっては、今は持つ方法がありません。上場後に日本の証券会社で扱われるかどうかも、この回で参照した資料では確かめられていません。外国株の配当と売却益にかかる税金は、各社を比べて外国株の配当と税金を整理する回で取り上げます。
銘柄選びの目線では、CXMTの伸びは南亜科技や華邦電子の「汎用DRAMの前提」に響く
CXMTの数字は、上場しているメモリー各社の株を選ぶうえでも無関係ではありません。TrendForceは2026年1月5日に、DRAMメーカーが2026年1〜3月も先端の工程と新しい生産能力をサーバー向けとHBMに振り向けると説明しています。目論見書の読めた範囲にHBMが出てこないCXMTと上位3社とでは、主戦場が少しずれていると私は見ています(当ブログの見方)。
近いのは、汎用のDRAMを主力にする台湾の南亜科技です。南亜科技は2025年1月、10ナノ級の第2世代の工程で作るDDR4とDDR5が、2025年のビット(記憶容量)ベースの生産の3割を超える見込みだと説明したと報じられています(TechNews、2025年1月13日)。CXMTとは製品の顔ぶれが重なります(当ブログの見方)。
規模も見ておきます。CXMTの2025年1〜9月の売上は約7,094億円、南亜科技の2025年12月期の売上665.9億台湾ドルは約3,249億円です(いずれも2026年1月30日のレートで当ブログが換算した参考値。会計基準も期間も違います)。CXMTは9か月で、南亜科技の1年分の約2.2倍を売った計算です。
南亜科技の株価は、2026年1月30日の終値で実績PER153.3倍、直近の10〜12月期の1株あたり利益を4倍した参考値では22.8倍です(当ブログの計算)。10〜12月期の営業利益率39.1%のような高い利益率が続くことを前提にした値段だと読めます(当ブログの見方)。その前提に、供給の側から影響しうる変数の一つがCXMTの伸びです。
華邦電子は、2025年11月5日の決算説明資料に「Structural supply gaps are driving DDR4 & DDR3 contract prices to keep rising into 2026」と書いています。構造的な供給の不足で、DDR4とDDR3の契約価格が2026年にかけて上がり続ける、という見方です。古い世代のDRAMの値段が、見通しの柱の一つになっています(当ブログの見方)。
大家業でいえば、CXMTは近所に建ち始めた大型の新築マンションです。今は入居希望者が多く、周りの家賃も上がっています。けれど新築が満室を目指して部屋を埋めにくる局面では、築年数の古いアパートの家賃に先に響きます(当ブログの見方)。
ただし、CXMTの販売単価や増産の計画は、この回で参照した資料では数字として確かめられていません。今のところは、シェアの推計と売上の伸びから、その影響を間接に測るしかありません(当ブログの見方)。
CXMTの目論見書は、売上の伸びより「赤字の縮み方」と「誰が資金を出しているか」を読む
CXMTは、2025年1〜9月に売上を前年同期比97.8%増やしながら、純損失59.8億元を出しました。研究開発費は売上の5割から2割台に下がり、営業CFは2024年にプラスへ転じています。売上の伸びより、赤字が縮む速さと、設備投資を払った後に現金が残るかが、この会社を読む軸だと私は考えます。
もう一つの軸は、誰が資金を出しているかです。国の半導体ファンドや地名を冠した株主が並び、上場でさらに大きな資金を募ります。そのとき出す新株で株数は最大で約17.6%増え、1株あたりの価値がどれだけ薄まるかは公開価格しだいです。
次に確かめたいのは、まず2025年の通期の数字です。7〜9月の売上166.5億元の勢いが10〜12月も続いたか、純損失がどこまで縮んだか。次に、上場にあたって示される株数と公開価格、そして会社が2026年か2027年とする黒字化の時期です。米国の規制の扱いと、YMTCを含む中国勢の動きも、引き続き見ておきたい点です。
大家業を長く続けていると、新築の物件ほど、最初の数年の家賃の伸びより、返済と修繕を払った後に何が残るかが大事だと感じます。目論見書も同じで、売上の見出しの数字より、その後ろにある赤字と現金と株主の欄が、会社の素顔を語ってくれます。
南亜科技や華邦電子など台湾のメモリー各社を取り上げる回、各社を比べて外国株の配当と税金を整理する回もあわせてどうぞ。
※本記事は公表資料をもとにした情報提供を目的としたもので、特定の銘柄の売買を勧めるものではありません。業績や株価に関する記述は当ブログの見方や試算で、将来の業績や株価を予想・保証するものではありません。
※数値は各社の決算資料・年次報告書・米国証券取引委員会(SEC)への提出書類などの公表資料をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。数値は2026年1月31日までに公表されたもので、時点は本文・表に記載しています。円換算は2026年1月30日の為替レートによる参考値です。税制は2026年1月31日時点の法令にもとづき、令和8年度税制改正大綱の内容は今後の法改正で決まります。
出典・参考
- 长鑫科技集团股份有限公司 首次公开发行股票并在科创板上市招股说明书(申报稿)(長鑫科技集団、2025年12月30日)https://static.sse.com.cn/stock/disclosure/announcement/c/202512/002170_20251230_B8QS.pdf
- 长鑫科技科创板IPO获受理:前三季营收超320亿元,拟募资295亿元(澎湃新聞、2025年12月31日)https://www.thepaper.cn/newsDetail_forward_32289436
- China Enters 2025 with Big Memory Breakthroughs(TechInsights、2025年初め・日付の表示なし)https://www.techinsights.com/blog/china-enters-2025-big-memory-breakthroughs
- New Year, Updated List: The U.S. Department of Defense Updates Its List of Chinese Military Companies with Ancillary Supply Chain and USG Contracting Impacts(Crowell & Moring、2025年1月9日)https://crowell.com/en/insights/client-alerts/new-year-updated-list-the-us-department-of-defense-updates-its-list-of-chinese-military-companies-with-ancillary-supply-chain-and-usg-contracting-impacts
- S. Department of Commerce Strengthens Export Controls on Advanced Computing and Semiconductor Manufacturing Items(Covington、2024年12月9日)https://www.cov.com/en/news-and-insights/insights/2024/12/us-department-of-commerce-strengthens-export-controls-on-advanced-computing-and-semiconductor-manufacturing-items
- Additions and Revisions to the Entity List and Conforming Removal From the Unverified List(87 FR 77505、Federal Register、2022年12月19日)https://www.govinfo.gov/content/pkg/FR-2022-12-19/html/2022-27151.htm
- SK Hynix’ Lead Shrinks In DRAM, HBM(Mark LaPedus、Semiecosystem、2025年12月24日)https://marklapedus.substack.com/p/sk-hynix-lead-shrinks-in-dram-hbm
- Server DRAM and HBM Continue to Drive Growth, 4Q24 DRAM Industry Revenue Increases by 9.9% QoQ(TrendForce、2025年2月27日)https://www.trendforce.com/presscenter/news/20250227-12492.html
- DRAM Revenue Drops 5.5% in the First Quarter of 2025; SK hynix Overtakes Samsung for Top Spot(TrendForce、2025年6月3日)https://www.trendforce.com/presscenter/news/20250603-12603.html
- 2Q25 DRAM Revenue Jumps 17.1%, SK hynix Expands Market Share as Taiwanese Vendors Deliver Strong Growth(TrendForce、2025年9月2日)https://www.trendforce.com/presscenter/news/20250902-12694.html
- Global DRAM Revenue Jumps 30.9% in 3Q25, Micron’s Market Share Climbs by 3.7 Percentage Points(TrendForce、2025年11月26日)https://www.trendforce.com/presscenter/news/20251126-12802.html
- Transition between DRAM Generations Drives Diverging 3Q25 Price Trends; Consumer DDR4 Prices Expected to Surge Over 40%(TrendForce、2025年7月7日)https://www.trendforce.com/presscenter/news/20250707-12633.html
- Memory Industry to Maintain Cautious CapEx in 2026, with Limited Impact on Bit Supply Growth(TrendForce、2025年11月13日)https://trendforce.com/presscenter/news/20251113-12780.html
- Memory Makers Prioritize Server Applications, Driving Across-the-Board Price Increases in 1Q26(TrendForce、2026年1月5日)https://www.trendforce.com/presscenter/news/20260105-12860.html
- WSTS Semiconductor Market Forecast Autumn 2025(WSTS・JEITA WSTS日本協議会、2025年12月2日)https://www.jeita.or.jp/japanese/stat/wsts/docs/20251202WSTS.pdf
- WSTS Autumn 2024 forecast(JEITA WSTS日本協議会、2024年12月3日)https://www.jeita.or.jp/japanese/stat/wsts/docs/20241203WSTS.pdf
- Winbond 3Q25 Investor Conference presentation(Winbond、2025年11月5日)https://www.winbond.com/export/sites/winbond/about-winbond/investor/investor-conference/3Q25-investor-conference_EN_final.pdf
- DDR4結構性缺貨 華邦電明年營收戰千億元 規劃新一輪擴產(鉅亨網、2025年10月19日)https://news.cnyes.com/news/id/6196913
- 南亞科 2024 年每股虧損64 元,DRAM 市場可望上半年觸底(TechNews 科技新報、2025年1月13日)https://finance.technews.tw/2025/01/13/nanya-technologys-full-year-loss-per-share-for-2024-is-rmb-1-64/
- Nanya Technology Q4 2025 Investor Conference presentation(Nanya Technology、2026年1月19日)https://financialfilings.com/filings/ntc-2408/investor-presentation/2026/33767083/
- 南亞科の株価:Yahoo Finance 2408.TW Historical Data(2024年12月31日〜2026年1月30日の終値)https://finance.yahoo.com/quote/2408.TW/history/
- 外国為替相場 2026年1月30日(三菱UFJリサーチ&コンサルティング、2026年1月30日)https://www.murc-kawasesouba.jp/fx/past/index.php?id=260130































