東雲結子:ホテルもアパートも、部屋を貸して家賃をもらう仕事ですよね。つまり、ほぼ同じ商売でしょうか。
税理士石井:うーん、入口は似ていますが、ホテルは毎晩売り直す商売、賃貸は一度決めた条件を長く守る商売です。
東雲結子:毎晩ですか。私なら毎日家賃を決め直したくなりそうです。
税理士石井:ホテルでは、それを本当にやります。ただ、その代わり清掃、人員、予約、クレーム対応も毎日動きます。
東雲結子:ああ、売上が増える分、仕事も一緒に増えるんですね。
税理士石井:そうです。賃貸は売上の伸びがゆっくりですが、運営費率も一般に低く、収入の見通しを立てやすい。
東雲結子:では、ホテルの売上だけ見て「賃貸より儲かる」と言うのは危ない?
税理士石井:その通りです。売上ではなく、最後に残る利益と、必要な人手まで並べて初めて比較できます。
ホテル業と賃貸業は、どちらも不動産の「空間」を顧客へ提供します。けれども、収入の作り方、価格の決め方、費用の出方、必要な人員は大きく異なります。ホテル側ではADR(平均客室単価)、客室稼働率、RevPAR(販売可能客室1室当たり売上)が重視されます。賃貸業では月額賃料、金額ベースの稼働率、NOI(営業純利益)が中心です。まずは同じ100室という架空の条件で、数字の動きを比べてみましょう。
ホテルは「1室を月30回売れる」
ホテル100室、ADRを1万5,000円、稼働率80%、1か月30日と仮定します。客室売上は、100室×1万5,000円×80%×30日=月3,600万円です。RevPARは1万5,000円×80%=1万2,000円。1室当たり月36万円を生む計算です。
数字だけを見ると、賃貸住宅より圧倒的に見えます。けれどもホテルは、宿泊者が替わるたびに清掃し、リネンを交換し、予約サイト手数料を払い、フロントや設備対応を行います。説明用に人件費、清掃、光熱水費、予約手数料、消耗品等を合わせて売上の65%と置けば、残るGOP(ホテル営業総利益)のイメージは月1,260万円です。
賃貸住宅は「1室を一度決めたら、毎月同じ条件で売る」
賃貸住宅100戸、月額賃料9万円、稼働率95%と仮定すると、月の賃料収入は855万円です。運営費率を25%と置けば、NOIは約641万円です。
ホテルの売上3,600万円と比べると小さく見えますが、毎日の客室清掃や予約対応はありません。入居者が長く住めば、募集費用も抑えられます。賃貸業の強みは、一度決めた契約が将来の売上をある程度先まで見せてくれることです。
売上が大きいホテル、利益率が高い賃貸
ホテルは、需要が強い日に価格を上げて売上を伸ばせます。その反面、売上を作るための費用も大きく、景気、天候、イベント、感染症、航空便など外部要因の影響を受けます。
賃貸は家賃を一晩で2倍にできませんが、長期契約による安定があります。設備故障や退去はあっても、毎日100組の顧客を入れ替える必要はありません。ホテルは「運営で稼ぐ割合」が大きく、賃貸は「資産を保有して稼ぐ割合」が大きい、と考えると分かりやすいでしょう。
APAがRevPARを重視する理由
アパホテルは、販売可能客室1室当たり売上であるRevPARを重要指標として公表しています。2025年4月に増築したアパホテル〈渋谷道玄坂上〉については、全国のアパホテルの中でもRevPARがトップ水準で、2024年度の年間稼働率が日帰り販売を含め100%を超えたと説明しています。
ホテルは、単に満室を目指すだけでは足りません。安く満室にすれば稼働率は高くても売上は伸びない。高くしすぎれば空室が増える。ADRと稼働率の掛け算でRevPARを見るのは、大家さんが「入居率」だけでなく「家賃金額ベースの稼働率」を見るのと同じ発想です。
大家業へ持ち帰るなら「戸数」ではなく、稼ぐ力を見る
賃貸住宅でも、満室かどうかだけではなく、1戸当たりの実効賃料、更新・退去コスト、運営費を含めて見ます。高家賃の1室が空いていれば、戸数入居率より収入への影響が大きいからです。
ホテルから学べるのは、数字を細かく管理する姿勢です。一方、ホテルのようにサービスを増やしすぎれば、賃貸業の低コストという長所を失います。ホテルの売上管理を学びつつ、賃貸の静かな収益構造を守る。この距離感が大切です。
| 説明用の月次比較 | ホテル100室 | 賃貸住宅100戸 |
| 単価 | 1泊1万5,000円 | 月額9万円 |
| 稼働率 | 80% | 95% |
| 売上・賃料収入 | 3,600万円 | 855万円 |
| 費用率の仮定 | 65% | 25% |
| GOP・NOIの仮定 | 1,260万円 | 約641万円 |
参考資料































