東雲結子:「来年も新築住宅の固定資産税は半分、土地の登録免許税も1.5%のまま。もう延長決定ですよね?」

税理士石井:「うーん、11月時点では“延長してほしい”という要望です。まだ決定ではありません」

東雲結子:「えーっと……国土交通省の資料に、令和8年4月から延長と書いてありますけど?」

税理士石井:「要望書には、実現したい期間と内容を書くんです。採用、修正、見送りのどれもあり得ます」

東雲結子:「では、4月決済の物件は、安くなる前提で資金計画を作れない?」

税理士石井:「そうですね。今は本則税率で資金を用意し、延長されたら余裕が生まれる形が安全です」

東雲結子:「なるほど。税制改正ニュースは、嬉しい数字だけ先に使うと危ないんですね」

税理士石井:「はい。大家業では“何が変わるか”と同じくらい、“いつ確定するか”が大切です」

 

2025年8月26日、国土交通省は令和8年度、つまり2026年度の税制改正要望を公表しました。そこには、新築住宅の固定資産税軽減、土地の所有権移転登記の登録免許税軽減、事業用資産の買換え特例、低未利用土地の100万円控除など、大家さんに関係の深い制度の延長要望が並んでいます。

こうした資料が出ると、「来年も制度が続く」と受け取りたくなります。私も物件の購入相談を受けていると、要望資料に載った数字が、いつの間にか確定税額として収支表へ入っていることがあります。ただ、11月はまだ“議論の途中”です。ここを丁寧に切り分けることが、税制改正を正しく使う第一歩です。

11月に見えているのは「来年の論点」であって、最終回答ではない

税制改正は、各省庁や業界団体が要望を出した時点で決まるわけではありません。まず要望が公表され、その後、政府・与党内の調整を経て税制改正大綱がまとめられます。さらに、法案が国会で成立し、必要に応じて政省令や地方税条例の整備が行われて、ようやく実務で使える制度になります。

したがって、2025年11月の記事で「来年から延長されます」と断定するのは早すぎます。正確には、「国土交通省が延長を要望しており、年末の大綱に盛り込まれるかを確認する段階」です。読者へこの一言を添えるだけで、記事の信頼性は大きく変わります。

税制は、契約日ではなく「どの日で判定するか」が制度ごとに違う

大家さんの判断を難しくするのは、制度によって基準日が違うことです。土地の登録免許税なら登記申請の受付時期、新築住宅の固定資産税軽減なら新築時期、低未利用土地の特別控除なら譲渡時期、事業用資産の買換え特例なら譲渡と取得の時期が問題になります。

売買契約を2025年12月に結んでも、決済と登記が2026年4月なら、登録免許税の期限判定は2026年側になります。逆に、税制が延長される見込みだからと工事や決済を急ぎ、融資条件や物件調査を雑にしてしまえば、税額差より大きな損失が生じます。税制は取引を後押しする材料であって、物件の良し悪しを逆転させる魔法ではありません。

資金計画は「本則」、投資判断は「延長あり・なし」の二本立てで作る

11月時点で2026年4月以降の取引を検討する場合、私は資金繰り表を二つ作ります。一つは、特例が延長されず本則税率へ戻るケース。もう一つは、要望どおり延長されるケースです。

購入時の諸費用は本則で用意し、特例が続けばその差額を修繕予備費へ回す。新築アパートなら、固定資産税の軽減がなくても返済できる収支を作り、延長されれば初期数年間の余裕が増えると考えます。この順番なら、税制改正の結果がどちらへ転んでも資金計画が崩れません。

12月以降に確認したい資料は、ニュース記事より一次資料

年末に確認したいのは、与党の税制改正大綱、政府の税制改正の大綱、そして翌年の法案・成立法です。見出しだけでなく、適用期限、対象者、対象資産、面積や価格の要件、経過措置を読みます。

特に「延長」という言葉には注意が必要です。期間だけ延びる場合もあれば、対象面積や地域要件が変わる場合もあります。大家さんにとって重要なのは、制度名が残ったかどうかではなく、自分の物件と取引が新しい要件に入るかどうかです。

11月時点での大家さん向け整理

2025年11月にできることは、税制改正を待って手を止めることではありません。来年に購入、新築、売却、買換えを予定している取引を一覧にし、どの制度が関係するかを確認しておきます。年末に大綱が出たら、該当制度だけをすぐ再計算できる状態にしておくのです。

税制改正は、知った人だけが得をするというより、準備していた人だけが締切りや届出を逃さず使える制度です。期待で先走らず、決定を待ちすぎず。11月は、その中間に立って準備する時期だと思います。

2025年11月時点の注目制度 現行期限 国土交通省の要望
新築住宅の固定資産税1/2軽減 2026年3月31日までの新築 2年間延長を要望
土地の所有権移転登記の軽減税率 2026年3月31日まで 3年間延長を要望
長期保有土地等の事業用資産買換え 2026年3月31日までの譲渡 3年間延長を要望
低未利用土地の100万円控除 2025年12月31日までの譲渡 3年間延長を要望

 

参考資料

国土交通省「令和8年度税制改正要望事項」(2025年8月)

国土交通省「令和8年度税制改正」

財務省「令和7年度税制改正(国税)等について」

※ 重要:2025年11月時点では、国土交通省の延長要望は確定した改正ではありません。年末の税制改正大綱、法案、成立法および適用要件を再確認してください。個別の税務判断は、取引日・資産・地域・契約内容により異なります。