東雲結子:「8年後の外壁と屋根で1,200万円です。配当だけで払えるようにしたいです」

税理士石井:「今、修繕用にいくらありますか?」

東雲結子:「400万円です。あとは高配当株が何とかしてくれる予定です」

税理士石井:「えーっと、予定ではなく、税引後の配当額を計算しましょう」

東雲結子:「2,000万円を4%で運用すれば、年80万円ですよね」

税理士石井:「課税口座なら手取りは約64万円です。8年で約510万円。まだ約290万円足りません」

東雲結子:「うわぁ、配当だけで完成すると思っていました」

税理士石井:「家賃から月3万円も積み立てれば、かなり現実的になります。配当は主役ではなく、修繕計画を支える二本目の柱にしましょう」

 

大規模修繕は、いつか必ず来ます。外壁、屋根、防水、給排水、エレベーター。金額が大きいため、家賃だけで準備しようとすると、毎月の手残りがほとんど消えてしまうことがあります。そこで配当金を修繕積立へ回す考え方は、大家さんと相性が良いと思います。

ただし、配当は家賃のような契約収入ではありません。減配もあれば、株価下落もあります。大規模修繕を株式市場へ丸投げするのではなく、現金積立と配当を組み合わせ、悪い年でも工事を延期しなくて済む設計が必要です。

1,200万円の修繕を、配当だけで賄えるか

8年後に1,200万円の工事を予定し、現在の修繕資金が400万円あるとします。不足は800万円です。株式2,000万円を配当利回り4%で保有すれば、税引前配当は年80万円です。

課税口座で20.315%の源泉徴収が行われる単純な前提では、手取りは年約63万7,000円。配当額が変わらず、再投資もしないとすれば、8年間で約510万円です。現在資金400万円と合わせても約910万円で、約290万円不足します。

ここで「配当利回りを6%へ上げよう」と考えるのは危険です。高い利回りを求めるほど、減配や株価下落のリスクも上がりやすくなります。足りない290万円は、家賃キャッシュフローから月約3万円を積み立てれば8年間でほぼ準備できます。

配当修繕口座を作ると、お金の役割が見える

配当が生活費や通常口座へ入ると、知らないうちに使ってしまいます。証券口座から受け取る配当を、修繕専用口座へ自動的に移す仕組みを作ると、工事資金が育っていることを確認しやすくなります。

私は、修繕専用口座には「既に使い道が決まっているお金」という意識を持つことが大切だと思います。通帳残高が増えていても、自由に使える利益ではありません。敷金を預り金として分けるのと同じです。

工事まで8年あるからといって、配当をすべて再投資する必要もありません。工事の3年前までは再投資し、その後は現金化するなど、時間の経過とともにリスクを下げます。

配当が減る年を最初から入れておく

計画上の配当は、今の配当額を8年間固定するのではなく、厳しいケースも作ります。例えば、3年目に配当が30%減り、その後回復しないケースです。年80万円だった配当が56万円になれば、8年間の累計は大きく下がります。

修繕時期の直前に株価が下落する可能性もあります。配当を受け取れていても、元本を取り崩さなければ工事費が足りない設計では、相場次第で工事計画が崩れます。

だから私は、最低限必要な工事費の半分以上は、家賃からの現金積立で準備する考え方を勧めます。配当は積立速度を上げる役割にし、工事の実行可否を配当に依存させないほうが安全です。

NISAは有力だが、制度が工事費を保証するわけではない

NISAでは運用益や配当・分配金が非課税となり、年間投資枠は最大360万円、非課税保有限度額は1,800万円です。配当修繕基金の一部をNISAで運用すれば、課税口座より積立効率を高められる可能性があります。

ただし、NISAで持っている株が減配すれば受取額は減りますし、損失が出ても課税口座の利益と損益通算できません。制度の有利さと、投資先の安全性は別問題です。

修繕費のように使う時期が決まっているお金は、工事が近づくほど株から現金へ移します。非課税だから長く持ち続ける、という判断が物件の安全を損なわないようにします。

配当金で修繕する目的は、節税ではなく資金繰りの安定

配当を修繕へ回しても、配当を受け取った時点の課税関係が消えるわけではありません。また、修繕費として経費になるか、資本的支出として減価償却するかは工事内容で判断します。

この仕組みの価値は、税金を減らすことではなく、家賃収入だけに頼らず大規模支出へ備えられることです。修繕のために高値で物件を売ったり、悪い条件で借入れたりする必要が減ります。

家賃は日々の運営を支え、配当は将来工事を支える。収入源を二つに分けると、大家業は少ししなやかになります。

8年後の修繕計画(説明用) 金額
予定工事費 1,200万円
現在の修繕資金 400万円
株式2,000万円・配当4%の税引前配当 年80万円
課税口座の手取り配当(20.315%控除の単純例) 年約63.7万円
8年間の手取り配当(配当不変の仮定) 約510万円
残る不足額 約290万円
家賃から追加する目安 月約3万円

 

参考資料

金融庁 NISAを知る

国税庁 上場株式等の配当所得等に係る申告分離課税制度

※個別銘柄の推奨ではありません。株価、配当、為替、税制、物件条件等によって結果は変わります。重要な判断は一次資料と専門家へご確認ください。