東雲結子:「配当利回り6%の株を見つけました。家賃でいえば高利回り物件ですよね。これは買いです!」

税理士石井:「うーん、その6%は、来年も払える6%でしょうか」

東雲結子:「配当は会社の利益から出るんですよね?」

税理士石井:「利益だけでなく、実際に残った現金から払います。利益があっても、設備投資と借金返済で現金が足りない会社もあります」

東雲結子:「ああ、黒字なのに通帳が増えないアパートと同じですか」

税理士石井:「そうです。配当利回りは入口で、配当性向、フリーキャッシュフロー、借入金まで見て初めて中身が分かります」

東雲結子:「では、利回り6%より4%のほうが安全なことも?」

税理士石井:「あります。少し地味でも、毎年増配できる会社のほうが、10年後の受取額は大きくなることがあります」

 

大家さんは、つい利回りから投資先を見てしまいます。これは不動産で長く数字を見てきた人ほど自然な反応です。ところが株の配当利回りは、アパートの表面利回り以上に、数字の裏側を読まなければ危険です。株価が下がった結果として、見かけの利回りだけが高くなっていることもあるからです。

私が高配当株を見るときは、今の配当額よりも「景気が悪くなった年にも、配当を続けられるか」を重視します。配当を受け取りながら長く保有するなら、一度の高配当より、減配しにくく、少しずつ増配できる会社のほうが、大家さんの資産形成には合いやすいと思います。

6%と4%。高いほうが必ず有利とは限らない

説明用の架空例として、A社とB社を比べてみます。A社は株価1,000円、年間配当60円で配当利回り6%。B社は株価1,500円、年間配当60円で利回り4%です。数字だけならA社が魅力的に見えます。

ところが、A社の1株利益が70円なら、利益の約86%を配当に回しています。B社の1株利益が150円なら配当性向は40%です。A社は利益が少し落ちただけで、配当を維持しにくくなります。B社には、利益が落ちても配当を支える余白があります。

不動産でいえば、家賃収入のほとんどを返済と経費へ使い切る物件と、毎年十分な修繕資金を残せる物件の違いです。表面利回りが高くても、余白のない物件は一度の空室や故障で苦しくなります。配当株も同じです。

配当の原資は「利益」より「自由に使える現金」

損益計算書の利益だけでなく、営業活動で得た現金から設備投資を引いたフリーキャッシュフローを見ます。会社が本業で100億円の現金を稼いでも、工場やシステムへ95億円を投じるなら、自由に使える現金は5億円しかありません。そこから配当と借入返済を行うのは、かなり窮屈です。

反対に、設備投資をした後も現金が安定して残る会社は、配当を続けやすくなります。電力、通信、日用品のように毎年ある程度の需要を見込みやすい事業と、景気や市況で利益が大きく動く事業では、同じ配当性向でも安全度が違います。

ここで大切なのは、1年だけを見るのではなく、少なくとも5年程度の営業キャッシュフロー、設備投資、配当総額を並べることです。好況年だけ余裕があり、不況年には借金で配当している会社なら、利回りが高くても慎重に見ます。

借金が多い会社は、株主より銀行を先に守る

会社の資金繰りが苦しくなれば、まず利息と元本を支払わなければなりません。配当は法律上の義務ではありませんから、最後に調整されやすい支出です。

大家さんなら、借入残高が多く、近い時期に借換えが集中している物件の怖さが分かると思います。会社も同じで、有利子負債、現預金、満期、金利負担を確認します。利益が増えていても、借金がそれ以上の速度で増えていれば、将来の配当余力は弱くなります。

私は、配当利回りが高い会社ほど、ネット有利子負債、利払い能力、格付け、借換え時期を丁寧に見ます。配当が高いから安心なのではなく、高い理由を説明できるかが重要です。

増配株は、家賃を少しずつ上げられる物件に似ている

配当利回り4%でも、毎年配当が5%ずつ増えれば、購入価格に対する受取利回りは時間とともに上がります。10年後の配当は、単純計算では当初の約1.55倍です。

もちろん、増配が続く保証はありません。それでも、売上と利益が伸び、配当性向に余裕があり、株主還元方針が明確な会社は、目先の高利回り企業より長期保有しやすいでしょう。

不動産でも、購入時の利回りだけでなく、賃料を維持・改善できるかを見ます。株では、配当の現在額だけでなく、配当を育てる事業の成長力を見る。大家さんにとっては、その考え方のほうが馴染みやすいはずです。

私なら、配当株をこの順番で確認する

最初に配当利回りを見ても構いません。ただし、次に配当性向、5年間の1株利益と配当、営業キャッシュフロー、設備投資、有利子負債を確認します。そのうえで、配当方針が「安定配当」なのか、「配当性向○%」なのか、「累進配当」なのかを読みます。

最後に株価を見ます。良い会社でも、期待が高すぎる価格で買えば、配当を受け取っても値下がりが大きくなることがあります。高配当株投資は、配当を拾う作業ではなく、配当を長く払える事業を適正価格で買う仕事です。

架空の比較 A社 B社
株価 1,000円 1,500円
年間配当 60円 60円
配当利回り 6.0% 4.0%
1株利益 70円 150円
配当性向 約86% 40%
見方 高利回りだが余白が小さい 利回りは低めだが余白が大きい

 

参考資料

金融庁 EDINET(有価証券報告書等の閲覧)

国税庁 上場株式等の配当所得等に係る申告分離課税制度

※個別銘柄の推奨ではありません。株価、配当、為替、税制、物件条件等によって結果は変わります。重要な判断は一次資料と専門家へご確認ください。