東雲結子:「人口が減っても、家賃が入る間は持ち続ければ大丈夫ですよね?」
税理士石井:「家賃が入る間は、ですね。では10年後、誰が買いますか?」
東雲結子:「その時の投資家さんが……」
税理士石井:「その投資家さんに、何年の融資が付く物件でしょう」
東雲結子:「あっ……築年数が進むと、融資期間も短くなるかもしれません」
税理士石井:「そうです。人口減少期は、保有中の家賃だけでなく、買主の資金調達まで出口へ影響します」
東雲結子:「売却価格は、今の利回りをそのまま使えない?」
税理士石井:「ええ。家賃、空室、経費、期待利回りが少しずつ悪化すると、出口価格は大きく下がります」
東雲結子:「買う前に、かなり厳しい売却表を作ったほうが良さそうですね」
2023年の空き家は900万2千戸、空き家率は13.8%でした。すべてが市場で競合する賃貸住宅ではありませんが、住宅余剰が広がっている事実は重く受け止める必要があります。
人口減少時代の不動産投資で、私は購入時の利回り以上に出口戦略を重視します。家賃が入っている間は問題が見えにくいのですが、売却時には、人口、賃料、空室、建物年齢、融資、地価が一度に価格へ反映されるからです。
出口価格は、家賃の下落と利回りの上昇で二重に下がる
説明用の仮定として、6000万円、年間満室家賃480万円の物件を考えます。現在は稼働率95%、運営費率25%なら、NOI(返済前の純収益)は約342.0万円です。購入価格6000万円に対するNOI利回りは約5.7%です。
10年後、賃料が10%下がり、稼働率90%、運営費率28%になったとします。NOIは約279.9万円へ下がります。さらに、買主が求める利回りが7.5%なら、収益還元で見た価格は約3732.5万円です。
家賃が10%下がっただけなのに、価格は6000万円から約3732.5万円へ下がります。理由は、収益が減るだけでなく、買主がより高い利回りを求めるからです。人口減少エリアでは、この二重の下落を必ず想定します。
借金が減っていても、売却手残りが残らないことがある
この物件を4800万円、金利2%、25年で借りたと仮定すると、10年後の借入残高は約3161.6万円です。
10年後の売却価格を約3732.5万円、売却費用を3%とすると、借入返済後に残るのは約458.9万円です。購入時に自己資金と諸費用を1500万円程度使っていれば、保有中のキャッシュフローを含めない限り、出口で大きく毀損します。
元金返済が進んでいるから安心、ではありません。物件価値の下落が借入残高の減少を上回れば、自己資本は減ります。
売れる物件は、次の買主が融資を受けられる物件
出口で重要なのは、自分が売りたい価格ではなく、次の買主が借りられる金額です。
建物の構造、築年数、残存耐用年数、違法・未登記、接道、再建築、検査済証、修繕履歴、賃貸借契約。金融機関が嫌う要素が多い物件は、買主の自己資金が多く必要になり、買える人が減ります。
高利回りで買えても、出口で現金買いの投資家しか買えない物件は、売却価格が弱くなります。人口減少地域ほど、買主層が薄いため、融資の付きやすさを購入時から確認します。
土地値が残る場所と、建物を壊した後に困る場所
築古物件では「最後は土地値があるから大丈夫」と言われます。しかし、土地値は実際に売れる価格でなければ意味がありません。
需要のない郊外地、接道が弱い土地、過大な敷地、解体費が重い土地、再利用しにくい土地は、固定資産税評価額があっても現金化に時間がかかります。
一方、駅、病院、学校、商業、幹線道路など、別用途でも需要がある土地は、建物が古くても出口を作りやすくなります。アパートとしての出口だけでなく、戸建分譲、事業用地、建替え、他用途への転換が可能かを見ます。
人口減少下では、撤退できる投資が強い
私は、人口減少時代の投資で一番大切なのは「撤退できること」だと考えています。
空室が増えたら家賃を下げる、間取りを変える、高齢者や外国人へ対象を広げる、トランクルームや社宅へ転換する、土地で売る。複数の出口がある物件は強いです。
反対に、特定企業一社だけに依存し、他用途に変えにくく、融資も付きにくい物件は、表面利回りが高くても慎重に見ます。
買う時点で、通常売却、厳しい売却、建物を壊して土地売却の3通りを作ってください。人口減少下でも不動産投資は続けられます。ただし、保有する理由だけでなく、手放せる理由まで持っている物件に限る、と私は考えています。
| 出口ストレスの仮定 | 現在 | 10年後 |
| 満室家賃 | 480万円 | 432万円(10%下落) |
| 稼働率 | 95% | 90% |
| 運営費率 | 25% | 28% |
| NOI | 342.0万円 | 279.9万円 |
| 評価利回り | 5.7% | 7.5% |
| 理論価格 | 6000万円 | 3732.5万円 |
参考資料
※ 数値は2025年11月時点で公表済みの資料を基礎にしています。個別の物件・地域・融資・法務・税務により結論は変わります。































