東雲結子:「人口が減るなら、とにかく若いファミリー向けを増やしたほうがいいでしょうか」

税理士石井:「若いファミリーは大切です。ただ、その層だけを全大家さんで奪い合うと競争が厳しくなります」

東雲結子:「では、誰を想定すれば?」

税理士石井:「単身高齢者、外国人就業者、単身会社員、ひとり親、小さな世帯です。世帯の形が変わっています」

東雲結子:「でも、対応することが増えそうですね……」

税理士石井:「そうですね。だから全員に合わせるのではなく、物件ごとに得意な入居者層を決めます」

東雲結子:「一棟の中で何でも対応しようとしなくていい?」

税理士石井:「ええ。誰にとって使いやすい部屋かを明確にしたほうが、設備投資も募集も無駄が減ります」

 

人口減少の話をすると、借り手が一様に少なくなるように感じます。しかし実際には、家族構成と年齢、国籍が変わり、必要とされる住宅の形が変わります。

国立社会保障・人口問題研究所の推計では、単独世帯の割合はすべての都道府県で上昇し、2050年には40%を超える県が27都道府県へ増えます。東京では54.1%の見通しです。2050年には、世帯主が65歳以上の世帯が半数を超える県が21県、65歳以上の単独世帯が全世帯の20%を超える道府県が32あります。

同時に、2025年6月末の在留外国人数は395万6619人と過去最高でした。人口減少時代の大家業は、「昔の標準的な家族」だけを想定していては市場の変化を取りこぼします。

単身世帯が増えるから、ワンルームだけ増やせばよいわけではない

単身世帯の増加は、確かに一人暮らし用住宅の需要を支えます。ただし、20代の単身者と、70代の単身者では、必要な住宅が違います。

若い単身者は駅、通信環境、宅配ボックス、初期費用を重視しやすいでしょう。高齢単身者は、階段の少なさ、病院、買物、緊急連絡、見守り、長く住める安心が重要です。

同じ1Kでも、3階階段のみ、浴室段差が大きい、周辺に店がない物件は、高齢単身者へ転用しにくくなります。人口構成が変わる前に、その物件が将来どの層へ貸せるかを考えておく必要があります。

高齢者需要は、設備より運営体制で差がつく

高齢者向けというと、手すりや段差解消を考えます。もちろん設備は大切です。しかし、大家さんが本当に怖いのは、家賃滞納、緊急時、孤独死、残置物ではないでしょうか。

これらは一つの問題ではありません。保証会社、緊急連絡先、見守り、死後事務や残置物対応の契約など、別々に仕組みを作ります。

人口減少下では、高齢者を一律に断る物件より、受け入れ条件を整えた物件のほうが募集対象を広げられます。家賃を下げるより、安心の仕組みに費用を使ったほうが収益を守れる地域もあります。

外国人需要は、個人募集より雇用先との関係が強い

外国人入居者を増やす場合、「外国人可」とポータルサイトに書くだけでは弱いと思います。

重要なのは、近隣の工場、物流、介護施設、ホテル、大学、日本語学校など、需要を持つ組織へつながることです。企業が複数人分の社宅を探しているなら、一室ずつ募集するより空室を早く埋められる可能性があります。

家具家電、Wi-Fi、多言語案内、やさしい日本語は有効ですが、需要確認前に設備を買わないことです。企業や仲介会社へ、家賃上限、入居人数、契約期間、必要設備を聞いてから商品を作ります。

ファミリー世帯は減っても、選ばれる物件は残る

少子化でファミリー世帯が減るから、ファミリー物件はすべて危険というわけではありません。

子育て世帯は、学校区、保育、病院、駐車場、収納、在宅勤務スペースなど、選ぶ条件が明確です。その条件を満たす物件へ需要が集中します。供給が少ない地域では、ファミリー物件が高い稼働率を維持することもあります。

大切なのは、地域の世帯構成と競合物件を確認することです。単身者が増えているのに大型3LDKばかり、ファミリー需要が強いのに狭い1Kばかりなら、需給のずれが生まれます。

一棟ごとに「誰のための物件か」を決める

人口増加期には、平均的な部屋を作れば幅広い人が借りてくれました。人口減少期は、平均的で特徴のない部屋が埋まりにくくなると思います。

一棟は高齢単身者、一棟は外国人社宅、一棟は子育て世帯、と役割を持たせてもよいでしょう。すべての入居者へ対応する必要はありません。

物件の立地と構造を見て、最も相性の良い入居者層を決め、設備、契約、管理を合わせる。人口減少下でも、選ばれる理由のある物件は残ります。

想定入居者 重視されやすい条件 大家側の準備
若年単身 駅、Wi-Fi、宅配、初期費用 オンライン募集、設備、短い意思決定
高齢単身 病院、買物、階段、見守り 保証、緊急連絡、残置物対応
外国人就業者 職場、家具、Wi-Fi、契約の分かりやすさ 法人・支援機関との連携、多言語案内
子育て世帯 学校、駐車場、収納、広さ 長期入居を意識した設備と修繕

 

参考資料

国立社会保障・人口問題研究所 日本の世帯数の将来推計(都道府県別)

出入国在留管理庁 令和7年6月末現在における在留外国人数

国土交通省 居住サポート住宅

国土交通省 外国人の民間賃貸住宅への円滑な入居