東雲結子:「この市は県庁所在地です。市内ならどこでも、それなりに需要がありますよね?」

税理士石井:「そうですねえ……その“市内ならどこでも”が、人口減少時代には少し危ない言葉です」

東雲結子:「同じ市でもそんなに違いますか?」

税理士石井:「駅、病院、スーパー、行政施設、学校、職場が残るエリアと、少しずつ撤退するエリアに分かれます」

東雲結子:「えーっと、それは……市の人口だけ見ても分からないですね」

税理士石井:「ええ。街が縮むとき、生活機能は中心部や拠点へ集約されます」

東雲結子:「では、駅前だけ買えばいい?」

税理士石井:「駅前も一つの答えですが、車社会では病院や商業施設への動線のほうが重要なこともあります」

東雲結子:「なるほど。物件から15分で何ができるかを見ればいいんですね」

 

人口減少時代のエリア選定では、市町村の選択だけでは足りません。市の中で、生活機能が残る場所と、人口密度が下がる場所が分かれていくからです。

国は、医療、福祉、商業、住宅を一定の区域へ集め、公共交通でつなぐ「コンパクト・プラス・ネットワーク」を進めています。2025年7月末時点で、立地適正化計画は643都市で作成・公表されていました。これは単なる行政資料ではありません。今後、自治体がどこへ公共施設や居住を誘導し、どこを維持しにくくなるかを読む材料です。

人口が減る街では、すべてのインフラを同じ密度で維持できない

人口と税収が減る中で、道路、上下水道、公共交通、学校、公共施設を広い市域へ同じように維持するのは難しくなります。

自治体は、病院、商業、行政、福祉などの都市機能を拠点へ集め、その周辺に居住を誘導しようとします。郊外のすべてがなくなるわけではありませんが、バスの減便、学校統合、スーパー撤退、公共施設の移転が起これば、住宅の利便性はゆっくり下がります。

不動産価格は、施設が撤退した日に突然ゼロになるわけではありません。売却に時間がかかる、家賃を下げないと決まらない、金融機関の評価が伸びないという形で、少しずつ効いてきます。

立地適正化計画の地図は、将来の生活圏を見るヒント

立地適正化計画には、都市機能誘導区域や居住誘導区域が示されることがあります。自治体が医療・商業・行政等を集めたい区域、居住を促したい区域です。

もちろん、区域内なら必ず値上がりし、区域外なら買ってはいけない、という単純な線ではありません。しかし、人口減少下で行政が維持しようとしている場所を知る意味は大きいと思います。

物件資料を開いたら、自治体の立地適正化計画、都市計画マスタープラン、地域公共交通計画を重ねてください。将来の駅、バス、病院、学校、再開発の方向が見えてきます。

徒歩15分、車15分で何がそろうか

都市部なら徒歩15分、地方なら車15分で、生活に必要な機能へ到達できるかを見ます。

若年単身なら駅、職場、コンビニ、飲食店。ファミリーなら学校、保育、スーパー、公園、病院。高齢者なら医療、買物、バス、金融機関。外国人社宅なら工場、物流拠点、送迎バス、生活必需品店。想定入居者によって重要施設は変わります。

「駅徒歩10分」という数字は便利ですが、電車を使わない地域では意味が薄いことがあります。現地で平日朝、平日夜、休日を歩き、実際の生活動線を確認します。

同じ市内で2キロ違うだけでも、出口は変わる

仮にA物件は駅・病院・スーパーが徒歩圏、B物件は駅から遠く、車がなければ生活しにくい場所だとします。現在の家賃が同じでも、人口減少と高齢化が進んだとき、A物件は単身者、高齢者、車を持たない世帯から選ばれやすくなります。

B物件も、駐車場2台、広い間取り、幹線道路へのアクセスがあれば需要は残ります。問題は、立地の弱さを物件の商品力で補えているかです。

駅から遠いのに駐車場がない、郊外なのに狭い、バスが減便するのに高齢者向け設備がない。こうした「立地と商品が噛み合わない物件」は、人口減少期に一番苦しくなります。

買う前に、撤退するサービスまで確認する

物件周辺に今ある施設だけでなく、撤退・統合の予定を調べます。学校再編、病院移転、公共交通再編、商業施設閉店、役所移転です。

自治体の議会資料や計画資料には、将来の再編方針が書かれていることがあります。ニュースになる前に、行政は資料を出しています。

人口減少時代の立地判断は、「今便利か」ではなく、「10年後も生活を成立させる最低限の機能が残るか」です。私は、市全体が縮んでも、その機能が集約されるエリアへ投資することが基本になると考えています。

物件からの生活圏 都市部で見るもの 地方都市で見るもの
15分以内 駅、スーパー、病院、職場 幹線道路、スーパー、病院、主要雇用先
公共交通 本数、終電、乗換え バス路線、送迎、減便計画
行政計画 再開発、誘導区域 中心拠点、学校・病院統合
物件商品 単身向け利便性 駐車場、広さ、収納、冬季対応

 

参考資料

国土交通省 立地適正化計画とコンパクト・プラス・ネットワーク

国土交通省 コンパクト・プラス・ネットワークの取組状況

国土交通省 立地適正化計画の実効性向上に向けたとりまとめ