東雲結子:先生、ローン金利が上がりそうで心配です。返済額が増えたら、家賃はすぐ上げられませんよね。

税理士石井:そうですね。金利上昇は大家さんには先に効きます。

東雲結子:銀行は金利が上がると儲かると聞きました。銀行株を買えば、返済増を全部取り戻せますか?

税理士石井:うーん、そこまで都合の良い相殺ボタンではありません。

東雲結子:えーっと、では意味がないのでしょうか?

税理士石井:完全なヘッジではありませんが、資産全体の偏りを和らげる考え方にはなります。

東雲結子:あっ、順番が逆でした。銀行株を買う前に、借入の固定・変動を確認するのが先ですね。

税理士石井:そのとおりです。本体の借入を整え、株は補助的な分散として使います。

 

金利上昇は、変動金利の借入を持つ大家さんにとって大きな逆風です。家賃は同時に上がりませんから、返済負担だけが先に増えます。一方、銀行は貸出金利と預金金利の差が広がれば収益が改善する場合があります。そこで、銀行株を持つことで金利上昇の痛みを少し和らげられないか、という発想が生まれます。

ただし、銀行株は金利と完全に連動する商品ではありません。預金獲得競争、保有債券の評価損、融資先の倒産など別の要因があります。まず借入を管理し、そのうえで資産側へ異なる性質のものを持つ、という順番です。

金利1%上昇は、手残り100万円の物件から約30万円を奪う

借入5,000万円、25年返済で、金利2%から3%へ上がると、今回の仮定では年間返済額が約30万円増えます。手残りが年100万円の物件なら、約3割が消えます。

この返済増は、管理料や修繕費のように努力で簡単に削れません。借入残高が大きいほど、1%の影響は重くなります。

銀行株は、金利上昇の恩恵を受ける場合がある

一般に、貸出金利が上がり、預金金利の上昇が緩やかなら、銀行の利ざやは改善する可能性があります。配当や利益が増え、株価が上がれば、大家さん側の返済増を一部和らげます。

しかし銀行は、債券評価損、信用コスト、預金流出などの影響も受けます。「金利上昇=銀行株上昇」と単純には決まりません。

返済増30万円を配当だけで埋めるには750万円

銀行株の配当利回りを4%と仮定すると、税引前配当30万円を得るには750万円の投資が必要です。課税口座では手取りが減るため、さらに多くの資金が必要です。

この金額を見ると、銀行株だけで完全に相殺するのは現実的でないことが分かります。ヘッジではなく、逆風の一部を和らげる分散と考えます。

株を買う前に、借入一覧へ「金利1%上昇時」を追加する

借入ごとに残高、金利、固定期間終了日、繰上返済手数料を一覧にします。さらに金利が1%上がったときの年間返済増を計算し、どの物件が最も弱いかを見ます。

固定化、借換え、繰上返済、家賃見直し、経費削減を先に検討します。銀行株を買って安心する前に、負債そのものを整えることが先です。

資産と負債を同じ表で見る

賃貸不動産、長期債券、高PER成長株は、一般に金利上昇が逆風になりやすい資産です。すべてが同じ方向へ動くと、相場変動と返済増が重なります。銀行株や現金など異なる性質の資産を少し持つと、全体の偏りを小さくできます。

ただし銀行株が下がり、ローン金利だけ上がる局面もあります。完全相殺を期待せず、返済余力と現金予備を土台にしたうえで使う考え方です。

項目 金利上昇時の一般的な影響
変動金利ローン 返済負担が増えやすい
高PER成長株 割引率上昇で逆風になりやすい
銀行株 利ざや改善が追い風となる場合
現金 値下がりしないがインフレに弱い

 

参考資料

日本銀行 2025年10月30日 当面の金融政策運営