東雲結子:グループ全体では現金があるなら、B社の修繕も安心ですよね。

メガ大家・黒田:そのつもりでしたが、現金はA社にあり、修繕する物件はB社なんです。

税理士石井:A社のお金は、グループ名が同じでも、当然にB社のお金ではありません。

東雲結子:あっ、家族の財布みたいに、横から移せるわけではないんですね。

メガ大家・黒田:銀行からも、資金移動の理由と返済方法を聞かれました。

税理士石井:貸付けにするのか、増資にするのか、B社が直接借りるのか。形によって将来の自由度が変わります。

東雲結子:うーん、連結では余裕でも、法人単体では資金ショートすることがある。

メガ大家・黒田:複数法人を持つなら、物件一覧だけでなく、法人ごとの資金繰りが必要ですね。

 

物件数が増えると、金融機関や共同経営者、相続、消費税、リスク分離などの理由で法人が複数になります。ところが、法人が増えるほど、グループ全体の現金と、実際に使える現金が一致しなくなります。A社には5,000万円あるのに、B社の8,000万円修繕が払えない。黒字の会社から赤字の会社へ、とりあえず振り込む。こうした場当たり的な資金移動は、税務、銀行、将来の相続で説明が難しくなります。

グループ合計より、法人ごとの12か月資金繰り

グループ全体で現預金1億円あっても、A社7,000万円、B社2,000万円、C社1,000万円という状態なら、B社の修繕8,000万円には足りません。しかもA社にも固定資産税、借入返済、次の取得資金があります。

まず各法人について、12か月の家賃入金、元利返済、税金、修繕、役員報酬、借入実行を月別に並べます。そのうえで「本当に余剰な現金」を出します。預金残高が多い会社ほど、将来支出も多いことがあります。通帳残高ではなく、予定を引いた後の残高を見ることが大切です。

法人 現在預金 12か月必要資金 移動可能性を検討する余剰
A社 5,000万円 3,500万円 1,500万円
B社 1,500万円 修繕を含め9,000万円 ▲7,500万円
C社 3,000万円 2,200万円 800万円

 

貸付けなら、契約・利率・返済を曖昧にしない

A社からB社へ貸し付ける場合、金銭消費貸借契約を作り、金額、利率、返済期日、返済方法を決めます。グループ会社だから無利息でよい、返済はいつかでよい、と考えると、決算書に長期間残り、金融機関から実質的な資本移動ではないかと見られることがあります。

利率はA社の調達金利、B社の信用力、市場条件を踏まえて要確認です。B社が返せない前提なら、最初から貸付けが適切なのか、出資や別の再編が必要なのかを考えます。「貸付金」という科目は簡単に作れますが、返済可能性まで含めて初めて貸付けです。

金融機関への説明を、資金移動後にしない

A社が金融機関から借りた資金をB社へ回す場合、融資契約上の資金使途に反する可能性があります。また、A社の預金を減らすことで、A社の財務条件や今後の融資評価へ影響することもあります。

資金を動かす前に、主要金融機関へ目的、金額、期間、返済原資を説明します。説明した結果、B社へ直接修繕融資を出してもらえることもあります。銀行に見つからないように動かすより、銀行が理解できる構造を作ったほうが、次の融資へつながります。

法人を増やすなら、資金を戻す道も作る

物件ごとに法人を分けると、売却や共同経営では使いやすい一方、現金が分散します。管理料、業務委託料、配当、貸付けなど、グループ内で資金を動かす方法はありますが、実態、契約、税務が伴わなければなりません。

私は法人を作るとき、「物件を買う法人」だけでなく、「将来、現金をどのように集約し、誰へ承継するか」まで考えるべきだと思います。法人の数を増やすのは簡単です。資金をきれいに動かせる仕組みを作るほうが難しい。メガ大家の法人設計は、節税よりも資金移動と承継の設計が主役です。

※ 個別の税務、法務、融資、投資判断は、法人・物件・契約・家族状況によって結論が変わります。重要な判断は一次資料と専門家へご確認ください。