東雲結子:黒田さんは4つの銀行と取引しているんですか。選び放題で安心ですね。

メガ大家・黒田:そう思っていました。でも、売りたい物件に別物件の共同担保が付いていて、話が止まりまして。

税理士石井:融資残高だけでなく、どの物件がどの借入れを支えているか、図にしていますか?

メガ大家・黒田:うーん、銀行ごとの一覧はありますが、担保のつながりまでは……。

東雲結子:銀行が増えるほど、自由になると思っていました。

税理士石井:増やし方によっては、糸が増えて動きにくくなることもあります。

メガ大家・黒田:たしかに。借入先の数ではなく、資金調達の出口が何本あるかを見るべきですね。

東雲結子:四行取引でも、出口が一本なら安心とは言えないんですね。

 

メガ大家になる過程で、金融機関との取引は自然に増えていきます。一行依存を避けられ、金利や融資期間を比較でき、物件ごとに金融機関を使い分けられる。多行取引には大きなメリットがあります。しかし、銀行が増えれば自動的に資金調達が安定するわけではありません。担保、保証、預金、借換え時期が複雑に絡むと、物件を売りたいとき、借りたいときに、思ったほど自由に動けなくなります。

銀行の数より、依存度を測る

借入総額5億円を4行から借りていても、A銀行が3億5,000万円、残り3行が5,000万円ずつなら、実質的にはA銀行への依存が大きい状態です。さらに、主要物件と個人保証、法人預金までA銀行へ集中していれば、条件変更を受け入れざるを得ない場面が出てきます。

銀行別に見るべきなのは、借入残高だけではありません。年間返済額、担保評価、預金残高、保証人、固定期間終了、次回借換え時期を並べます。売上高に占める主要取引先比率を見るのと同じで、資金調達も「一行が止まったら、何か月持つか」を考えます。

確認項目 A銀行 B銀行 C銀行 D銀行
借入残高 3.5億円 5,000万円 5,000万円 5,000万円
借換え集中年 2027年 2029年 2028年 2030年
共同担保 多い なし 一部 なし
預金集中 高い 低い 中程度 低い

 

共同担保は借りやすさと売りにくさの交換条件

複数物件を共同担保に入れることで、融資額や条件が改善することがあります。一方、担保の一つを売るときには、残った物件だけで借入残高を支えられるか、金融機関の再評価を受けます。売却代金の大部分を繰上返済へ求められ、想定した手取りが残らないこともあります。

共同担保そのものが悪いのではありません。問題は、売却の自由度を理解しないまま使うことです。購入時には「この物件を5年後に売る場合、担保解除の条件はどうなりますか」と聞いておく。融資実行時に出口を尋ねるのは気が早いように見えますが、大規模な経営では、それが普通だと思います。

メイン行を作ることと、一行依存は違う

メイン行には、決算の背景、今後の取得方針、修繕計画を深く理解してもらう価値があります。困ったときに相談できる関係は、一朝一夕には作れません。ただし、メイン行へ情報を集めることと、すべての物件・預金・保証を一行へ寄せることは別です。

サブ行にも定期的に決算説明を行い、小さな融資や預金取引を続けます。いざというときだけ「貸してください」と言っても、相手には判断材料がありません。多行取引の本当の価値は、銀行同士を競わせることではなく、複数の銀行が自社を理解している状態を作ることです。

担保相関図を、年に一度更新する

私がお勧めするのは、法人、物件、借入れ、担保、保証を矢印で結んだ一枚の図です。どの法人が借り、どの物件が担保に入り、誰が保証し、どの預金が拘束されているか。決算書だけでは見えない資金調達の構造を図にします。

規模が大きくなると、経営者本人の記憶だけでは追えません。担当者が異動したとき、相続が起きたとき、物件を急いで売るとき、この一枚が会社を守ります。銀行の数を増やす前に、今ある関係を見える化する。これが、資金調達の自由度を本当に高める第一歩です。

※ 個別の税務、法務、融資、投資判断は、法人・物件・契約・家族状況によって結論が変わります。重要な判断は一次資料と専門家へご確認ください。