東雲結子:佐藤さん、不動産で120万円赤字なら、給与から120万円引けるんですよね?

副業大家・佐藤:そのつもりで、税金の還付も資金計画へ入れています。

税理士石井:赤字の中に、土地を買うための借入利息はいくら入っていますか?

副業大家・佐藤:えーっと、70万円ほどです。何か違うんでしょうか。

税理士石井:不動産所得の赤字のうち、その部分は給与などとの損益通算の対象外になります。

東雲結子:えっ、赤字は一枚岩ではないんですね。

副業大家・佐藤:120万円全部ではなく、通算できるのは50万円ということですか。

税理士石井:この例ではそうです。税金の還付は、赤字額そのものではなく、通算できる所得と税率で決まります。

 

「不動産は赤字にして、給与の税金を取り戻す」。サラリーマン大家向けの説明で、よく見かける言葉です。減価償却費が大きい物件では、現金が残っていても税務上赤字になることはあります。しかし、赤字の全額を給与から差し引けるとは限りません。さらに、税金が戻っても、投資そのものが儲かっているとは限りません。節税を収益と取り違えると、物件価格の判断を誤ります。

赤字120万円でも、通算できるのは50万円の例

不動産所得の赤字が120万円で、その必要経費に土地取得借入金の利子70万円が含まれているとします。国税庁の説明では、不動産所得の損失のうち、土地等を取得するための負債利子に相当する部分は、給与など他の所得との損益通算の対象になりません。

この単純例では、給与所得などと通算できる赤字は50万円です。限界税率を所得税・住民税合わせて30%と仮定しても、税負担への効果は概算15万円です。「120万円赤字だから120万円戻る」わけでも、「税率30%だから36万円戻る」わけでもありません。

項目 金額
不動産所得の赤字 120万円
うち土地取得借入金の利子 70万円
給与等と通算できる赤字の単純例 50万円
税率30%と仮定した税効果 約15万円

 

減価償却は、お金が出ない経費。でも無料ではない

減価償却費は、建物や設備の取得費を年数に応じて配分する経費です。その年に同額の現金が出るわけではないため、節税効果と現金収支の両方を改善することがあります。ここまでは、大家さんにとって大きなメリットです。

ただし、建物の売却時には、取得費から減価償却費相当額を差し引いて譲渡所得を計算します。保有中に経費となった分だけ、売却時の取得費が小さくなる面があります。節税が無意味という話ではありません。保有中だけ見て「減価償却が大きいほど得」と決めず、売却までつなげて見る必要があるということです。

還付金を頭金に入れる収支計画は危ない

税務上の赤字や還付額は、給与、扶養、他の所得、源泉徴収額、税率によって変わります。土地利息の区分や修繕費・資本的支出の判定が変われば、予想額も変わります。

物件を買う前の収支表では、還付金を入れなくても資金が回るかを確認してください。還付があれば修繕予備へ回す。還付がなければ払えない計画は、税務判断のわずかな違いで崩れます。

税金ではなく、税引後の現金で物件を比べる

物件Aは減価償却が大きく税金が少ないが、毎月の返済後キャッシュは20万円。物件Bは税金を多く払うが、返済後キャッシュが80万円。税金だけならAが有利でも、資産形成ではBが上かもしれません。

私は、物件比較に「税引前CF」「税額」「税引後CF」「元金返済」「将来修繕」を並べます。節税は目的ではなく、良い投資から生まれる結果の一つです。税金を減らすために赤字を買うのではなく、利益が残る物件の税金を正しく抑える。この順番を守ると、投資判断がぶれにくくなります。

参考資料

国税庁 No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算

国税庁 No.3252 取得費となるもの