東雲結子:「個人のアパートを法人へ移します。自分の会社だから、名義変更みたいなものですよね?」

税理士:「売買なら、普通に不動産の売買です」

東雲結子:「でも売る相手は私の会社ですよ?」

税理士:「税務署から見ると、そこは別人格です」

東雲結子:「家族旅行くらいのつもりが、海外移住レベルの手続き……」

個人で所有している賃貸物件を、資産管理法人へ移したい。よくある相談です。法人へ家賃を集めたい、相続対策をしたい、融資をまとめたいなど理由はいろいろあります。ただし、不動産を個人から法人へ移すのは、単なる名義変更ではありません。売る側・買う側の双方に税金と諸費用が発生します。

自分の会社に売っても、個人側では「売却」

個人が土地・建物を法人へ売却すれば、個人側では譲渡所得の計算が必要です。

例えば、土地建物の時価が5,000万円、取得費等が3,000万円、譲渡費用が100万円なら、単純化すると譲渡益は1,900万円です。

自分の会社だから譲渡益が消えるわけではありません。所有期間に応じた所得税・住民税等の検討が必要です。

仮定 金額
法人への売却価額 5,000万円
取得費 3,000万円
譲渡費用 100万円
単純化した譲渡益 1,900万円

「安く売れば税金も安い」は、かなり危ない発想

国税庁は、個人が法人へ土地建物を時価の2分の1を下回る価額で売った場合など、時価を収入金額とみなす取扱いを示しています。

例えば時価5,000万円の物件を、自分の法人へ2,000万円で売れば、契約書が2,000万円でも個人側の税務計算がそのまま2,000万円になるとは限りません。

さらに、同族関係者間の取引では価格の妥当性を説明できる資料が重要です。「自分同士だから好きな価格で」は、税務では通用しにくい考え方です。

法人側にも、不動産取得税・登記・借入れがやってくる

法人は物件を取得する側ですから、売買代金だけでなく、不動産取得税、所有権移転登記の登録免許税、司法書士報酬、融資費用なども考える必要があります。

個人側で税金を払ったうえに、法人側でも取得コストが発生します。

また、法人に5,000万円の現金がなければ、銀行融資を受けるか、個人から法人へ貸し付けるなど資金調達も必要です。「法人化したら税金が減る」だけで考えると、最初の現金流出で驚くことがあります。

建物を売ると、消費税が登場することもある

個人が賃貸事業に使っていた建物を売却する場合、その個人が消費税の課税事業者であれば、建物部分の売却が消費税の課税対象となることがあります。土地は非課税です。

そのため、売買価格を土地・建物にどう配分するか、売る年の課税事業者判定がどうなっているかも要確認です。

法人へ移したい年だけを見ず、消費税まで含めた税額を計算してから売買価格と時期を決める必要があります。

法人化の損得は「10年表」で見る

法人へ移す効果は、その年の税金だけでは判断できません。

・移転時に出る税金・諸費用
・法人で今後受け取る家賃
・法人での減価償却
・役員報酬や社会保険
・将来売却するときの税金
・相続時の扱い

これらを5年、10年単位で並べて初めて、移転する意味が見えます。

「法人を作ったから、物件も全部法人へ」は順番が逆です。移したほうが得な物件だけを選ぶ、という考え方もあります。

参考資料

国税庁 土地建物を売ったときの収入金額

国税庁 事業用建物等を譲渡した場合の消費税