東雲結子「利回り7%! 買えたら私、毎日が日曜日だわ」

税理士「返済と経費、将来の修繕用のお金も計算しました?」

東雲結子「まだです。先にハンモックをお気に入り登録しました」

税理士「今回の条件だと、修繕用に50万円を残せば、税引前の余裕は年6.78万円です」

東雲結子「……検索を『ハンモック 中古』に変えます」

税理士「その検索より先に、物件の条件を見直しましょう」

机には「利回り7%」と書かれた物件資料。スマートフォンには、まだ買っていないハンモック。購入後の暮らしを想像するのは楽しいものですが、その前に、家賃の中から何を支払い、いくら残せるのかを確かめましょう。表面利回りと、自由に使えるお金の割合は違います。

そこで今回は、1億円の物件を具体的な条件で買った場合を、保有中から5年後の売却まで計算します。「7%はよい、悪い」と決める記事ではありません。自分が許容できる資金余力があるか、数字のどこを調べれば判断できるかを考える記事です。

7%にひと目ぼれする前に。まだ引いていないお金があります

今回の物件価格は1億円、満室時の年間家賃は700万円。700万円÷1億円=7%が表面利回りです。これは、空室、経費、購入諸費用、借入返済、所得税・法人税等を差し引く前の数字です。

購入諸費用は別に700万円かかると仮定します。総支出1億700万円に対して借入れは8,000万円なので、当初の自己資金は2,700万円。満室家賃を総支出で割るだけでも、700万円÷1億700万円=約6.54%に変わります。分母を替えただけで、名札の数字が少しおとなしくなりました。

借入れは年2.5%、25年間、毎月の元利均等返済。金利は全期間変わらず、ボーナス返済なしとします。実際の年間入金家賃は満室想定の93%、つまり651万円です。

ここでいう93%は「入居戸数の割合」ではなく、満室想定家賃に対する年間家賃入金の割合です。部屋ごとの家賃差、空室期間、フリーレント等を踏まえて設定する指標で、物件を見た日の入居率93%とは一致しません。預かった敷金も、今回の収入には入れていません。

家賃700万円が、税引前の余裕6.78万円になるまで

運営費は、管理料を入金家賃の5%とします。そのほか、固定資産税40万円、保険12万円、共用部分の電気・清掃等24万円、通常修繕35万円、募集等20万円。後者五つの合計は131万円です。実際には物件ごとに違いますが、今回は仮定を固定して比較します。

年間の資金の流れ 金額 計算・意味
満室想定家賃 700.00 物件資料の出発点
実際の入金家賃 651.00 700×93%
管理料 ▲32.55 651×5%
その他の運営費 ▲131.00 上記五項目の合計
借入返済前の現金収支 487.45 入金家賃−運営費163.55
元利返済 ▲430.67 月次計算による12回分
返済後の現金収支 56.78 所得税・法人税等の支払い前
将来の大規模修繕用に確保 50.00 自分の預金の中で使わず残す額
上記確保後、使える資金の目安 6.78 56.78−50。所得税・法人税等は別途

返済額は、月利を2.5%÷12、返済回数を300回として計算すると月358,893.387…円、年4,306,720.647…円です。表の430.67万円は、端数処理前の月額を12倍したもの。銀行での実際の返済は、端数処理等により少し違う場合があります。

ここで大切なのは、50万円を「経費」と扱わないことです。別口座へ移しても自分の預金であり、現預金の合計はそれだけでは減りません。この例では、年56.78万円の現金増加のうち50万円を使わず確保し、残り6.78万円を自由に使える目安にしています。積立口座を作っただけで税金まで減ったら、口座開設窓口に行列ができます。

当初自己資金2,700万円に対する税前の返済後現金収支は約2.10%。修繕用資金の確保後は約0.25%です。表面利回り7%と、自己資金に対して使える現金の割合は、ここまで違います。

もっとも、年50万円の確保で修繕費が足りるとは限りません。屋根、外壁、給排水設備等の状態と工事予定から必要額を見積もることが先で、この50万円は計算用の仮置きです。

金利3.5%なら、満室でも税引前の余裕は年3.4万円?

借入額8,000万円・25年返済は変えず、金利を1.5%、2.5%、3.5%とした三つの購入条件で比べます。各条件の金利は全期間一定。途中で金利が変わるローンの返済予定を再現した表ではありません。

管理料は入金の5%、その他の運営費131万円、修繕用の確保額50万円は共通です。

年間入金家賃/満室想定 年1.5% 年2.5% 年3.5%
85%:入金595万円 0.31 ▲46.42 ▲96.35
93%:入金651万円 53.51 6.78 ▲43.15
100%:入金700万円 100.06 53.33 3.40

表は、運営費と元利返済を払い、さらに年50万円を確保した後の資金です。単位は万円、所得税・法人税等の支払い前。マイナスの場合、既存資金で補うか、予定した50万円を確保できないことを示します。

年2.5%の場合、運営費・返済だけを賄う年間家賃の水準は、満室想定の約84.46%。さらに50万円を確保するには、約91.98%が必要です。計算は「必要家賃=(固定的な運営費131万円+年間返済430.67万円+確保額50万円)÷95%」。これを満室家賃700万円で割っています。

93%を見込んで買ったのに85%になれば、確保後の資金は年約53.2万円悪化します。電卓の故障ではなく、入金家賃が56万円減り、管理料の減少2.8万円だけがその一部を補う計算です。

そして3.5%では、満室でも残るのは約3.4万円。予定外の支出が一件あれば、資金確保の計画が崩れ得ます。購入前には、楽観的な一列だけでなく、家賃入金が下がった列を見て「この不足に何年耐えられるか」まで確認しましょう。

現金が少ないから税金も少ない? その思い込みに待った!

「現金があまり残らないなら、税金も少ないはず」。そう思いたくなりますが、借入元本の返済は必要経費になりません。一方、建物等の減価償却費は、その年に同額の現金を払わなくても所得計算に反映されます。

今回の借入れの最初の12回を計算すると、利息は197.34万円、元本返済は233.33万円です。

項目 現金収支での扱い 所得計算での扱い
借入利息197.34万円 支出 賃貸業務に対応する利息は原則として費用
元本返済233.33万円 支出 費用にはならない
建物等の減価償却費 当年の償却計上自体では支出しない 取得価額・耐用年数等に基づき費用化
自分の修繕用口座への50万円移動 現預金の合計は変わらない 移動しただけでは費用にならない

ここでは未収・前受による期ずれはなく、税務上の賃料収入も651万円とします。運営費163.55万円がすべて当年の必要経費等になるとの仮定なら、減価償却前の所得は、651万円−163.55万円−利息197.34万円=約290.11万円。ここから適正に計算した減価償却費などを差し引きます。現金収支56.78万円を、そのまま申告書の利益欄へ移すわけにはいきません。

建物と土地の取得価額の配分、建物・設備の耐用年数、取得日、取得諸費用の処理が分からない段階では、税後の手残りは確定できません。修繕に見える工事でも、資産価値を高める支出等は、その年の費用ではなく資本的支出となる場合があります。[1]

ここを確かめず「減価償却で税金はゼロです」と言い切るのは、身長を測る前にスーツの袖を切るようなもの。購入前に物件資料を税理士へ渡し、個人か法人かも含めて税後表を作ります。

売れた値段は全部戻らない。出口で待つ残債6,772.81万円

続いて、25年ローンを60回返済した直後に売る仮定です。この時点の借入残高は約6,772.81万円。売却額が丸ごと戻るわけではなく、残債と売却費用を精算します。

ここでは売却費用一式を売価の4%と仮置きします。仲介手数料の法定上限を表した数字ではありません。実務では仲介、登記、繰上返済等の実額を積み上げます。税金は次の表に含めません。

5年後の売却価格 仮の売却費用4% 残債返済後の入金
9,000万円 360万円 1,867.19万円
1億円 400万円 2,827.19万円
1億1,000万円 440万円 3,787.19万円

家賃と経費が5年間ずっと同じで、大規模修繕もまだ実施していなければ、保有中の返済後現金収支は、端数処理前の年額を5年分合計すると約283.89万円です。この中には、確保した50万円×5年=250万円も含まれています。積立を別枠で足すと二重計上です。

1億円で売れた場合は、2,827.19万円+保有中の283.89万円−当初自己資金2,700万円=約411.08万円。9,000万円売却なら約548.92万円のマイナス、1億1,000万円売却なら約1,371.08万円のプラスです。いずれも所得税・法人税等と売却時の税金を差し引く前で、大規模修繕費も追加していないモデルです。

なお、売却時の課税所得は、上の「現金がいくら増えたか」と同じではありません。個人の土地建物の譲渡では、売価から取得費・譲渡費用等を引いて計算し、建物の取得費は減価償却相当額を反映します。残債の返済額をそのまま差し引く計算ではありません。[2]

個人の長期・短期の区分も、単にローンを60回払ったかではなく、売却年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかで判定します。今回の「5年後」は資金計算の時点であり、長期譲渡になるとの前提は置いていません。

買付けの前に、7%の「中身」を取り寄せよう

同じ7%でも、現実に入る家賃、工事の必要性、融資条件、売却時の値段で結果は変わります。判断材料をそろえるなら、まず現在の賃貸借契約、家賃入金、退去・募集履歴を確認します。今の入居者の家賃を、退去後もそのまま維持できるとは限りません。

次に、運営費は直近一年だけでなく、複数年の実績と今後の値上げ・工事見込みを確認。募集費がたまたま少なかった年、修繕を先送りしていた年の支出を、そのまま将来へコピーしないようにします。融資は返済期間だけでなく、金利見直し、手数料、繰上返済条件まで見ます。

今回の年6.78万円という資金余力なら、年15万円の追加支出だけでも、50万円を確保した後の資金は約8.22万円不足します。「何とかなる」を置く欄は、表計算ソフトにはありません。購入価格を交渉するのか、融資条件を見直すのか、自己資金を増やすのか、別の物件を探すのか。数字が見えれば、選べる手も具体的になります。

利回りは物件を探す入口として便利です。その先で確認したいのは、保有中に無理なく払えるか、必要な修繕資金を残せるか、売却まで含めて投じたお金に見合うか。7%の看板を眺めるところから、通帳に残る金額を設計するところへ進みましょう。

計算注:本文中の価格・家賃・金利・経費・将来修繕資金・売却価格はすべて仮定。元利均等返済は、月返済額=借入額×月利÷{1−(1+月利)のマイナス300乗}で計算。月ごとの利息・元本を端数処理せず算出し、表示時に丸めています。表の丸め値を再計算すると、端数差が生じることがあります。

参考資料

[1] 国税庁『令和6年分 収支内訳書(不動産所得用)の書き方』(2024年10月1日時点の法令等に基づく資料)。借入金利子、元本返済、減価償却、修繕費・資本的支出の説明。

[2] 国税庁『令和6年分 譲渡所得の申告のしかた』「土地や建物の譲渡所得のあらまし」(2024年分申告用、2025年10月以前公表)。取得費、建物の減価償却相当額、長期・短期の区分。