
東雲結子「飛行機に投資するなら、会社名は『東雲航空』かしら」
税理士「まだ資料を受け取っただけですよね」
東雲結子「ロゴも考えたの。翼を広げた私!」
税理士「広げるのは、まず契約書にしましょう」
東雲結子「でも、この例みたいに税金が150万円減るなら、お祝いくらいは……」
税理士「その前に1,000万円の出資です。あとで増える税金も確認します」
東雲結子「……ロゴの翼、いったん畳んでください」
航空機や船舶の投資資料は、写真も金額もスケールが大きいもの。東雲さんの想像がふくらむのも分かります。でも、会社のロゴより先に決めたいのは、「自分のお金をいくら出し、いつ、いくら回収する計画なのか」です。
航空機や船舶のリース事業に投資すると、当初の損失を取り込むことで、その年の税負担が軽くなる場合があります。しかし、それだけで「投資したら得をする」とは決まりません。税金を払う時期、投資に拘束される現金、最終的な回収額。この三つを並べて、アパート経営の資金と両立するか考えましょう。
この記事は2025年10月時点の制度を前提とします。以下の金額と税率は仕組みを理解するための仮定で、特定商品の条件や収益予測ではありません。
飛行機の写真は同じでも、買う権利は別物です
「航空機投資」という呼び名だけでは、契約の中身は分かりません。自分で機体を所有して貸すのか、共同事業に参加するのか、事業を営む会社に出資するのかで、権利も税務も変わります。
| 参加の形 | 何を持つのか | 最初に確認すること |
| 直接所有して貸す | 航空機・船舶そのものなど | 所有者としての契約、借入れ、管理負担、収入・費用の帰属 |
| 任意組合などに参加 | 共同事業に係る持分 | 組合契約、業務への関与、損益の帰属、損失制限 |
| 匿名組合に出資 | 営業者に対する契約上の権利 | 損益配分、分配条件、出資の回収方法。機体の共有持分とは異なる |
日本型オペレーティング・リースの一例では、営業者が投資家の出資と借入金で機体などを取得し、航空会社などへ貸します。初期は減価償却費等が先行して損失が生じ、後期には利益や売却益が出る設計があります。初期の損失だけを切り取ると、後半のページを落とした推理小説になってしまいます。
契約形態はほかにもあります。販売資料に「リース」「節税」とあっても、別の商品と同じ税務処理ができるという意味ではありません。ここからは、法人が匿名組合へ出資する単純化した例で見ていきます。
同じ投資でも税金は別ルート。法人と個人の分かれ道
法人の匿名組合出資では、契約上配分される利益や負担する損失を、原則として所定の事業年度に取り込みます。現金がまだ分配されていなくても、利益を計上する場合がある点は、資金繰り上の要注意ポイントです。
ただし、「配分された損失なら、必ず全額を損金にできる」とは限りません。一定の組合事業には、出資額等を基礎とした損金算入の制限があります。契約内容等によっては、その期の損失全額が損金に算入されない場合もあります。匿名組合も法人側の制限の対象です。
一方、個人の匿名組合員が受ける利益の分配は、原則として雑所得です。共同経営の実態がある場合などは別の判定がありますが、一般の出資者が「航空機の赤字を、自分のアパートの黒字から引こう」と、そのまま置き換えることはできません。
個人が任意組合などに参加する場合も、一定の「特定組合員」に該当すると、その組合事業による不動産所得の損失は生じなかったものと扱われます。同じ不動産所得の黒字との相殺や、給与所得等との損益通算を予定しても、その損失は使えません。
つまり、機種の説明より先に必要なのは「投資するのは誰で、どの契約の、どの規定を使うのか」です。税務の搭乗券が違えば、同じ飛行機の写真を見ていても行き先は変わります。
150万円の節税。そのために、いくら現金が必要?
次の前提を置きます。法人が1,000万円を出資し、初年度に税務上も認められる損失500万円が配分される。他の事業に十分な課税所得があり、その損失を当期に全額使える。税額の増減は一律30%とし、欠損金の制限、税率差、源泉税の納付時期などは考えません。
すると当初の税額減少は、500万円×30%=150万円です。ただし、1,000万円を払い込んだ日に150万円が振り込まれるわけではありません。ここでいう効果は、対応する納税が終わった後の比較です。
まず、後年に1,000万円を回収して投資自体は損益ゼロとなる例を見ます。途中の入出金はなく、初年度の損失500万円に対し、後年に利益500万円が配分されると仮定します。
| 単位:万円 | 当初 | 後年の回収時 | 投資全体 |
| 出資・回収による現金増減 | ▲1,000 | +1,000 | 0 |
| 税務上の損益 | ▲500 | +500 | 0 |
| 税金の増減による現金効果 | +150 | ▲150 | 0 |
| 税金まで含めた現金増減 | ▲850 | +850 | 0 |
初年度は確かに150万円の税負担が軽くなります。しかし、投資しない場合に比べ、使える現金は850万円少なくなっています。出資という資産に形が変わったのであって、この850万円がそのまま経済的な損失という意味でもありません。
後年の利益で150万円の税負担が増えれば、税額の永久的な減少はゼロ。税金を払う時期が後ろへ動いた、いわゆる「課税の繰延べ」です。後払いには資金を使える期間が延びる価値がありますが、それを得るために、投資資金を長期間拘束することになります。
なお、回収した1,000万円を全部「利益」として課税した計算ではありません。この例では、出資額1,000万円から損失500万円を反映した残高に、後年の利益500万円を加えると1,000万円になる関係です。入金額、利益配分、出資の回収を区別し、毎年の帳簿と照合します。
800万円しか戻らなかったら? 「節税成功、投資失敗」の計算
では、最終回収額が変わるとどうなるでしょう。同じく初年度の損失500万円、税額減少150万円を前提に、後年の利益と最終回収額だけを変えます。税務と現金の関係を説明するモデルなので、費用等は下表の損益・回収額に織り込み済みとし、途中分配や追加出資はありません。
| 単位:万円 | 回収800万円 | 回収1,000万円 | 回収1,100万円 |
| 投資自体の損益=回収−出資 | ▲200 | 0 | +100 |
| 後年に配分される課税利益 | 300 | 500 | 600 |
| 後年の税負担増:30% | 90 | 150 | 180 |
| 全期間の税額増減:後年税額−当初150 | ▲60 | 0 | +30 |
| 税引後の投資損益 | ▲140 | 0 | +70 |
800万円しか戻らない場合、全期間では税負担が60万円減っています。それでも投資の損失200万円を埋め切れず、手元のお金は140万円減る計算です。「税金が減った!」と拍手したあと、通帳から静かに異議が出ます。
1,100万円戻る場合は、投資利益100万円に対し、全期間の税負担増は30万円。税引後の利益は70万円です。こちらの利益の源泉は、投資が100万円もうかったこと。最初の150万円だけを「利益」と呼ぶと、後年の税負担180万円が行方不明になります。
実際は、途中分配、毎年の損益、適用税率、外国税額、費用、追加支出等で結果が変わります。販売資料には「初年度の税額」だけでなく、年ごとの入出金と、最終年までの税引後合計を出してもらいましょう。
飛行機の写真より、出口の条件。契約前の六つの質問
この投資は、税務の仕組みが確認できても、事業としての採算が自動的によくなるわけではありません。借り手の支払能力、満了時の売却価格、為替などが回収を左右し得ます。[1]
| 確認項目 | 具体的に聞くこと |
| 借り手と契約 | 誰が賃料を払い、不払い・破綻時に誰が再リースや回収を行うか。止まった期間の費用は誰の負担か |
| 売却価格・残価 | 想定価格の根拠は何か。買取オプションの権利者は誰で、行使されない場合はどう売るか |
| 為替 | 出資・分配・売却は何通貨か。円換算の採算表は、どの為替水準で作っているか |
| 手数料・維持費 | 組成、販売、管理、売却等の費用を全部含めた回収額か。予想外の支出や追加出資義務はあるか |
| 途中での換金 | 譲渡・解約は可能か。承諾、買い手、値引き、手数料の条件は何か |
| 納税と入金の時期 | 利益を計上する年と現金が届く年は一致するか。遅れたときの納税資金はどこから出すか |
例えば、将来10万米ドルを受け取るだけの単純なケースなら、1米ドル150円では1,500万円、130円では1,300万円。円での回収は200万円違います。これは架空の換算例で、相場予測ではありません。税率表を熱心に見ていても、為替の欄が空白なら採算表は未完成です。
また、「借り手が買う権利を持つ」ことと「借り手が必ず買う義務を負う」ことは違います。買取価格の表示だけで回収を確定させず、実際の契約と不行使の場合の計画まで読みましょう。
先に900万円残せる? アパートを回すお金から逆算しよう
投資をしなければ納税後に1,500万円残る見通しで、数年以内のアパート修繕に600万円、借入返済や急な支出に300万円を残す計画なら、今回の1,000万円出資はその計画と両立しません。投資による納税後の資金減少850万円を引くと、手元は650万円。確保したい900万円に250万円足りないからです。しかも、納税効果が出る前は、いったん1,000万円全額が出ていきます。
ここで「船の投資が終わったら戻るから」と言いたくなりますが、アパートの外壁は、船の帰港を待ってくれるとは限りません。修繕の必要時期と投資の回収予定を同じ年表へ載せることが先です。
出資前にそろえたいのは、契約書に基づく税務判定、年別の税引後資金表、アパートの修繕・借入返済を含む資金予定表。この三つです。初期損失が使えるかを税理士が確認し、売却価格や換金条件などの商品条件は販売者に具体的な数字で確認します。
その結果、「税負担の時期を調整しながら、投資としても採算が見込める」「必要資金を確保しても余裕が残る」と判断できるなら、検討する意味があります。税金の減少額だけでなく、最後にいくら残り、途中で資金が足りるか。大家さんの経営を守るのは、その二つの答えです。
参考資料
[1] 株式会社FPG『第23期 有価証券報告書』(2024年12月23日提出)「リースファンド事業」「事業等のリスク」。発行会社作成の一次資料を掲載するPDF。個別商品の推奨には使用していません。
[2] 国税庁『法人税基本通達 第14章 第1節 第1款 組合事業による損益』14-1-1、14-1-1の2、14-1-3(関係箇所は2005年改正通達)。
[3] 国税庁『第67条の12〈組合事業に係る損失がある場合の課税の特例〉関係』(2005年度改正に関する解説)及び『別表九(二)の記載の仕方』(2025年申告様式)。租税特別措置法67条の12に係る損失制限。 / 関連資料
[4] 国税庁『平成17年度税制改正及び有限責任事業組合契約に関する法律の施行に伴う任意組合等の組合事業に係る利益等の課税の取扱いについて(情報)』(2006年1月27日)うち、特定組合員の不動産所得に係る損益通算等の特例、匿名組合契約に係る課税の取扱い。租税特別措置法41条の4の2、所得税基本通達36・37共-21。 / 関連資料 / 関連資料2































