入居者「来月帰国するので、これからは友人だけが住む予定です」

東雲結子「では、手続きは出発前日にまとめて……」

管理担当「それ、8月31日の宿題の進め方です」

東雲結子「でも、書類は数枚ですよね?」

管理担当「借主の名義、保証、敷金、返金先も確認します」

東雲結子「算数だけのつもりが、自由研究まで残ってた!」

管理担当「今回は徹夜しても、銀行の窓口は開きませんよ」

帰国の予定が決まると、引越しや荷造りの話が先に進みます。賃貸の手続きも「最後に書類へ名前を書けば終わり」と思いたくなりますが、友人が住み続けるなら、誰の契約をどう変えるのか、確認することがいくつもあります。出国前日に初めて書類を広げるのは避けたいところです。

帰国や転勤、同居人の入替えがあるときは、「誰が帰るか」より先に「誰が借主か」を確認しましょう。今回は、契約の形によって変わる手続き、帰国後の返金、継続入居と再募集の収支まで考えます。国籍にかかわらず、海外へ移る人やルームシェアに役立つ整理です。

二人住んでいても、借主は一人かもしれない

二人で住んでいても、二人とも借主とは限りません。国土交通省掲載の相談事例集も、借主・同居人と、賃料等の義務を負う人の特定を重視しています。

契約書の署名欄だけでなく、借主欄、同居人欄、保証契約を見ましょう。借主と保証人が同じページに署名していても、立場は同じではありません。

契約と退去の形 先に確認すること 主な手続きの方向
Aが借主、同居人Bが退去 Aが家賃を払い続けられるか 同居人情報と必要な届出を更新
Aが借主で帰国、同居人Bが残る 誰が以後の借主になるか 賃借権譲渡や旧契約終了・新契約等を検討
A・Bとも借主で、一人が退去 退去する人を契約から外すか 必要な当事者で責任・名義・保証を整理
個室ごとに別契約 どの契約を終了するのか 退去する人の契約を個別に処理

「Aさんが出るなら、明日からBさんが契約者」で済むとは限りません。新しい借主の支払能力や保証の確認、契約変更等が必要です。帰国する人が鍵を友人へ渡しただけでは、大家さんとの契約まで引き継がれたことにはなりません。

二人とも借主の場合も、一人の退去だけで責任が自動的に消えるとは限りません。反対に、どの債務も必ず同じ範囲で負担すると、署名の数だけで決めつけないこと。連帯負担の合意など、実際の契約を確認します。

一人減っても家賃はそのまま。残る人の財布は大丈夫?

仮にAさんだけが借主で、家賃は月9万円。承諾済みの同居人Bさんと、二人の間では4万5,000円ずつ負担していたとします。

Bさんが出ても、大家さんとの契約を変えなければ、Aさんが負う家賃は9万円のままです。ただし、Aさんの実際の負担は月4万5,000円増え、6か月では27万円増えます。「契約上請求できます」で話を終えると、電卓は正しくても、入金予定表が困った顔をします。

残る人の希望と支払いの見通しを聞き、一人で継続するのか、別の同居人を迎えるのか、解約するのかを検討しましょう。新たな同居人の負担を当てにするなら、入居予定日と、見つからない場合の支払いも確認します。

入替えでは、借主の変更なのか、同じ借主の下で同居人が変わるのかを分けます。賃借権の譲渡や転貸には、民法上、貸主の承諾が必要です。同居人の追加等の届出・承諾は契約によって異なり、国の標準契約書でも通知事項とする形と、親族以外の追加を承諾事項とする変更例が区別されています。

すべてのルームシェアを転貸と決めつけず、反対に、誰が入っても名簿を書き換えるだけと考えないことです。新しい人の氏名、人数、入居日、使用目的、保証会社への手続きを管理会社と確認します。保証契約がそのまま継続するかも、自動判断しないでください。

飛行機の出発時刻で、賃貸契約は終わりません

部屋全体を返す場合は、解約予告期間と通知方法を確認します。国の標準契約書は30日前の申入れを基本としていますが、すべての契約に共通する法定の期間ではありません。

例えば、10月20日に出国しても、契約が10月末まで続くなら、出国だけを理由にそれ以降の家賃がなくなるわけではありません。途中月の日割り方法、早期に契約を終える合意の有無など、実際の条件を確かめます。航空券は出発時刻に強いですが、解約予告期間の交渉まではしてくれません。

管理会社との記録では、通知が届いた日、契約終了日、荷物を出して鍵を返す日、出国日、精算の予定日を分けましょう。鍵の返却本数、室内確認の日程、帰国後の連絡手段まで決まれば、工事の見積りや次の募集を進めやすくなります。在室中の立入りは、本人の承諾を得て行います。

一人だけ出る場合は、住戸全体の解約通知なのか、同居人変更の連絡なのかを明記します。残る人がいるのに住戸全体を解約した扱いにしたり、借主が出るのに同居人変更だけで終えたりしないことです。

一部の荷物を残すなら、残る人の物、大家が引き受ける設備、退去者が撤去する物を区別し、写真と一覧を残します。「友人が使います」と聞いただけで、大家が所有者になったとは考えないようにしましょう。

敷金は割り勘の飲み代じゃない。半分返す前の確認

敷金は、同居人間の割勘と、大家・借主間の返還関係を分けます。Aさんが借主として預け、BさんがAさんに半額を渡していた場合、Bさんの退去だけで大家からBさんへ半額返す話にはなりません。

状況 大家側で確認する敷金の扱い
同じ借主が住み続ける 同居人退去だけで自動精算しない。内部負担は別に整理
借主が適法に賃借権を譲渡 従前の借主への返還と、新たな預託等を確認
契約終了・部屋の返還 未払債務等を精算し、返還先と残額を確認

民法は、賃貸借が終了して物件の返還を受けたときに加え、借主が適法に賃借権を譲り渡したときも、敷金から対象債務を控除した残額を返す場面として定めています。名義を変えるのに、敷金は「何となく前の人のまま」で済ませないことです。

全員が退去する仮定の例なら、敷金18万円から未払家賃2万円、借主負担の範囲と金額を確認した原状回復費3万円を引くと、返還額は13万円です。通常損耗・経年変化は原則として借主の原状回復義務から除かれます。特約や損傷原因等も確認し、控除の根拠を写真や見積りで説明します。

帰国日に金額が確定しないときは、確認済みの部分と未確定の部分、次の連絡予定を共有します。帰国したというだけで全額を長期間保留したり、念のため多めに引いたりしないこと。標準契約書は、明渡し後の遅滞ない返還と、控除内訳の明示を定めています。

返すお金はある。なのに、振込先がない!

金融庁の2024年9月改訂資料は、帰国時には金融機関へ連絡して口座を解約するよう案内しています。帰国後も国内口座を利用できるかは、本人から金融機関へ確認してもらいましょう。「いつもの口座に返す」で準備を終えないことです。

海外送金なら、取扱いのある国・地域、必要な受取情報、送金目的を示す資料、着金までの期間を確認します。金融機関等によって条件が異なります。 口座情報の誤りで再送が必要になると、手数料と連絡の往復が増えます。返金額だけでなく、通貨、送金・受取側の手数料、為替換算をどう扱うかも事前に共有します。

合意がない場合の弁済費用は原則として返す側の負担で、受け取る側の住所移転等で増えた費用は別扱いになる、という民法のルールもあります。一律に「海外だから全部借主負担」とは決めず、具体的な負担と根拠を確認してください。

国内の友人へ返してほしいと言われた場合は、本人の意思、代理人の身元、返金を受領する権限、対象額、振込先を記録します。単なる緊急連絡先なのか、受領を委任された人なのかを区別するわけです。

親切そうだから振り込む、では受領権限の確認になりません。敷金を二回返すと、大家さんの気前だけが海外進出してしまいます。返金後は、送金記録と精算書を残し、本人への連絡まで終えましょう。

手続きが面倒? 6か月で21万5,500円の差が出る例

では、残る借主が無理なく家賃9万円を払い続けられ、必要な手続きをして継続する案と、全員退去して再募集する案を比べてみます。次は、今後6か月の大家側の入出金を比較する架空の例です。

管理料は入居中の家賃の5%。継続する案では、追加の確認・手続きに大家負担で1万5,000円。再募集する案では空室1か月、大家が負担する募集費9万円、内装費5万5,000円が発生する仮定です。各費用は相場や法定料金ではありません。

6か月の比較 継続入居 全員退去・再募集
家賃入金 54万円 45万円
管理料 ▲2万7,000円 ▲2万2,500円
今回増える手続き・募集・内装費 ▲1万5,000円 ▲14万5,000円
上記だけの差引額 49万8,000円 28万2,500円

この期間の差は21万5,500円です。税金、借入返済、両案共通の費用は除き、返還する敷金は利益に加算していません。内装費は将来の退去時へ繰り延べられる可能性もあり、21万5,500円が永続的な利益増という意味ではありません。

また、残る人の支払いに無理がある、必要な保証が用意できない、大きな修繕の時期と重なる、新規募集なら家賃を変えられる、といった条件で判断は変わります。継続さえすれば得、と結論づけず、実際の契約と見積りに数字を置き換えてください。

一人の帰国が決まったら、借主、責任、日付、敷金、返金先をそろえる。飛行機を追いかける必要はありませんが、契約と入金の予定は、出国前に着地点を決めておきたいですね。

 

参考資料

[1] 国土交通省掲載・賃貸借トラブルに係る相談対応研究会「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)」(2022年3月)、114ページ「複数人による契約」「ルームシェア」。

[2] e-Gov法令検索「民法」第485条、第612条、第621条、第622条の2。弁済費用、賃借権譲渡・転貸、原状回復、敷金返還。2020年4月施行改正を踏まえるが、契約時期等による適用関係は個別確認。

[3] 国土交通省「賃貸住宅標準契約書 平成30年3月版・家賃債務保証業者型」(2018年3月版、2024年12月の注意点等追加を含む)。第6・8・11・14〜16条、別表第3、24ページの同居人追加に関する変更例。標準書式であり、実際の契約条件と区別して使用。

[4] 金融庁「日本でくらすための銀行口座や送金のつかい方」(2024年9月改訂)。帰国時の口座の取扱い、海外送金の取扱いと確認事項。