東雲結子「民泊のベッドには、タオルで作った白鳥を置きたいですね!」

管理担当「誰が折るんですか?」

東雲結子「私です。毎回一羽ずつ、心を込めて!」

管理担当「清掃も予約対応もありますよ」

東雲結子「……不労所得を増やすつもりが、白鳥工場に就職してる」

管理担当「外注する費用も入れて、普通に貸す場合と比べましょう」

東雲結子「私を時給ゼロで雇う計画、まず不採用にします!」

東雲さんは、宿泊サイトに載せる部屋の写真を考えて、早くも張り切っています。見栄えを整えるのは大切ですが、予約が増えるほど清掃や連絡の仕事も増えます。「自分でやれば無料」と計算すると、いつの間にか大家さん自身の時間が売り切れてしまいます。

今回は、一つの住戸について通常賃貸、住宅宿泊事業法による民泊、旅館業法の簡易宿所を比較します。「一泊いくらで売れるか」から一歩進み、人に頼む費用と初期投資まで入れて、「自分の物件なら何泊から検討に値するか」を計算してみましょう。

※2025年10月時点の制度を前提とした記事です。会話・物件・金額は架空の検討例で、地域の相場や収益を保証するものではありません。

その部屋、泊めていい? ソファを買う前の関門

最初に、営業できるかどうかを確認します。家具を買ってから「この場所では難しい」と分かると、ソファより大家さんの気持ちがへこみます。

比較項目 通常の住宅賃貸 住宅宿泊事業法の民泊 旅館業法の簡易宿所
主な手続き 住宅の賃貸借契約 都道府県等への届出 保健所等を窓口とする営業許可
年間の日数 宿泊の180日制限の対象外 実際に人を宿泊させる日数が180日以内 全国一律の180日上限はない
建物・立地 住宅としての適法性を確認 住宅要件、自治体条例等を確認 用途地域、構造設備、自治体条例等を確認
運営上の特徴 入退去ごとの対応が中心 宿泊ごとの対応、管理委託の要否を確認 許可条件に応じた宿泊施設の運営が必要

住宅民泊には、台所・浴室・便所・洗面設備に加え、実際の居住、居住者の募集、随時の居住利用などの要件があります。空室なら何でも対象になるわけではなく、泊めるためだけの形ばかりの入居募集では足りません。

簡易宿所は、多数人で共用する構造・設備を主とする宿泊施設という区分です。「一室を貸すから簡易宿所」と自動的には決まらないため、計画図と運営方法を保健所に見てもらいます。住宅民泊も簡易宿所も、建築・消防の確認を別に進め、区分所有なら管理規約も確認しましょう。

なお、特区民泊は別の認定制度です。本稿の試算対象には含めず、住宅民泊の180日ルールと混同しません。

「稼働率50%」に拍手する前に、分母を見よう

住宅民泊の180日は、実際に宿泊させた日数の上限です。予約を受け付ける候補日が必ず180日という意味ではありません。制度上の1年は4月1日正午から翌年4月1日正午まで。自治体条例で実施できる区域や期間がさらに制限されることもあります。[2]

以下は、それぞれの方式で適法に営業できることを確認できた一住戸の比較例です。実際には、どちらかの方式を選べない物件もあります。制度上の1年に合わせた12か月について、整備・自己使用・条例上の制限などを除いた予約候補日を300日と仮定します。その50%に予約が入り、実際の宿泊は150泊。住宅民泊でも簡易宿所でも、この300日を分母にします。

住宅民泊は300泊できる、という意味ではありません。実際の宿泊は180日以内に収め、予約段階でも上限を管理します。地域の制限で候補日が100日なら、後の計算も100日に置き換えてください。電卓の「都合のいい日だけ出勤する機能」は、ここでオフです。

宿泊料は一室一泊1万5,000円、清掃料込み。別建ての清掃料収入は計上しません。平均2連泊で150泊なら、予約件数は75件。清掃は一泊ごとではなく、原則として一予約の終了ごとに行う前提です。

売上225万円。大家さんの取り分は、まだ順番待ち

通常賃貸は月6万5,000円で年間11か月分を受領する例です。自己管理で、追加の募集費が発生しない年を仮定します。共通の建物関連費は年18万円。固定資産税、保険、小修繕などの予算です。

宿泊では、予約サイト等の手数料を売上の15%、光熱・消耗品を一泊1,500円、清掃を一予約6,000円と設定。これとは別に、管理・緊急対応等の固定費を住宅民泊24万円、簡易宿所42万円と仮置きします。

年間の収支項目 通常賃貸 住宅民泊 簡易宿所
家賃・宿泊料収入 715,000円 2,250,000円 2,250,000円
予約手数料 0円 337,500円 337,500円
清掃費 0円 450,000円 450,000円
光熱・消耗品費 0円 225,000円 225,000円
共通の建物関連費 180,000円 180,000円 180,000円
宿泊運営の追加固定費 0円 240,000円 420,000円
上記項目だけの年間収支 535,000円 817,500円 637,500円

宿泊の売上は通常賃貸の3倍以上ですが、残るお金は3倍になりません。「売上が大きいから安心」と思っていると、経費が電卓の裏口からぞろぞろ入ってきます。

固定費は実際の見積額ではありません。特に住宅民泊で宿泊中に不在となる場合などは、一定の例外を除き登録を受けた住宅宿泊管理業者への委託が必要です。清掃だけ頼めば足りるとは限らず、委託範囲、売上連動料金、夜間出動の追加料金まで確認します。[4]

表は消費税の影響を除いた採算比較です。課税される売上・費用は税抜、非課税の住宅家賃や固定資産税等はその金額で計上しています。宿泊サービスは住宅家賃と同じ非課税扱いにはなりません。

実際の手残りは、免税・課税の別、一般課税・簡易課税等の計算方法、仕入税額控除の可否で変わります。資金繰りは税込の入金・支払いに組み直し、消費税の納付・還付を反映して確認します。税抜表から納付税額だけを差し引く計算にはしません。この表には、所得税・法人税等、借入返済・利息、大家さん自身の労務費も含めていないため、これらも実際の計画に加えます。

初期費用まで回収すると、賃貸との差は年4万2,500円?

追加初期費用を、住宅民泊120万円、簡易宿所300万円とします。家具、設備対応、設計や手続きの費用などを想定した仮の総額です。

ここでは5年間の単純比較のため、初期費用を5で割って毎年の収支から引きます。これは投資を回収できるかを見る計算で、税務上の減価償却費でも、毎年発生する現金支出でもありません。5年後の残存価値はゼロと置いています。

投資回収を含めた比較 通常賃貸 住宅民泊 簡易宿所
追加初期費用 0円 1,200,000円 3,000,000円
5年回収の年平均負担 0円 240,000円 600,000円
その負担を引いた年平均収支 535,000円 577,500円 37,500円

住宅民泊が通常賃貸を上回る差は、年4万2,500円です。開業準備中の無収入や、追加の修理、撤退時の原状回復まで考えたら、差が消える可能性もあります。初期費用を計算から外してよいのは、電卓に収納する場合くらいです。

この条件で一泊増えると残る金額は、1万5,000円×85%−1,500円−6,000円÷2=8,250円。通常賃貸の年53万5,000円を、初期費用の5年回収後も上回る目安は、住宅民泊145泊、簡易宿所211泊です。300日に対して約48.3%、約70.3%になります。

もちろん、価格や連泊数を一定と置いた計算上の目安です。簡易宿所の211泊は、住宅民泊の180日上限では実現できません。許可を取れば予約も自動で付いてくる、という機能は付いていません。

平均2泊から3泊へ。清掃費が年15万円変わる計算

同じ150泊でも、平均3連泊なら予約件数は50件になり、清掃費は30万円。平均2連泊の45万円より、年15万円少なくなります。宿泊単価、手数料率、その他の条件が同じなら、その分だけ収支が改善します。

ただし、連泊割引で単価が下がれば利益も変わります。単に最低宿泊日数を伸ばして予約が減ったら逆効果。近隣の宿について平日・休日・繁忙期を分け、何人が何の目的で何泊するのかを調べましょう。

清掃料を別に受け取る運営なら、その収入を売上に追加し、手数料の対象になるかも確認します。「清掃料はお客さん持ちだから、清掃費はゼロ」とすると、入金と支払いの片方だけが行方不明です。

家具のカートを閉じて、先に集めたい三つの資料

一つ目は、所在地と間取りを示した営業可否の確認メモです。保健所、建築担当、消防、必要なら管理組合へ確認し、使える制度と実施可能な期間を整理します。

二つ目は、管理・清掃・緊急対応の見積書。料金だけでなく、誰が鍵、名簿、問い合わせ、ごみ、近隣対応を担当するのかまで書き出します。住宅民泊の運営には安全確保や苦情対応等の義務もあります。

三つ目は、通常賃貸を含めた5年間の比較表。需要が弱い年の泊数、開業までの無収入、設備更新、撤退費も加え、宿泊に変える価値が残るかを確認します。初期投資の支払いは先、予約の入金は後ですから、運転資金の残高も月ごとに見ます。

「一泊いくらで売れるか」に加えて、「何泊、どの手間で、いつまで続けられるか」。ここまで分かると、宿泊への転換が自分に合うかを判断できます。電卓には最後まで働いてもらいましょう。大家さんまで年中無休になる前に。

参考資料

[1] 観光庁「住宅宿泊事業(民泊)を始める方へ」(2022年3月の情報を掲載)

[2] 観光庁「住宅宿泊事業法(民泊新法)とは」「対象となる住宅」「事業者の業務[2]」(2018年6月施行制度の解説。ページの公表年月記載なし) / 関連資料 / 関連資料2

[3] 厚生労働省「旅館業法の概要等について」(2021年8月27日、第1回検討会資料)

[4] 観光庁「管理業務の委託について」(2018年6月施行制度の解説。ページの公表年月記載なし)

[5] 国税庁「消費税のあらまし」(2025年6月、非課税取引・住宅の貸付け)