「今月も家賃が入りました。残高も増えたし、なかなか順調!」
その通帳を、屋根と外壁が、横からのぞき見しているかもしれません。
「そのお金、次の修繕で使う予定ですよ」と。
一棟アパートを持つ大家さんは、分譲マンションのように管理組合から修繕積立金を請求されるとは限りません。だからこそ、自分で将来の工事代を確保する必要があります。今回は、個人の大家さんが自分の預金口座に積み立てる場合の、金額の決め方と税務の話です。
自分の別口座に移しても必要経費にはなりません
最初に、少し残念なお知らせです。家賃口座から「修繕用口座」に毎月7万5,000円を移しても、その振替だけで不動産所得の必要経費にはなりません。
お金は同じ大家さんの預金の中を移動しただけで、工事費用が発生したわけではないからです。口座名に「修繕費」と付けても、この点は変わりません。
必要経費は、原則として、その年に費用の支払義務が確定しているかなどによって判断します。将来の工事に備えて自分で取り置いた金額は、それだけではこの要件を満たしません。
なお、区分所有マンションの管理組合へ規約に従って支払う修繕積立金には、一定の要件をすべて満たすと支払期日の属する年の必要経費にできる取扱いがあります。今回の「自分で自分の口座に積むお金」とは別の話です。
月額は家賃の何%より工事の予定から
では、いくら積めばよいのでしょう。「家賃の10%」などの割合を入口にすることはできますが、その数字だけで十分とは言い切れません。建物の状態、前回の工事、設備の数で、必要なお金が変わるからです。
管理会社や施工業者と、いつ、どこを直すかを整理します。国土交通省の計画修繕ガイドブックでも、長期修繕計画を作って資金を確保し、点検で見込めた時期や費用に応じて積立額を調整する考え方が示されています。
次は、計算方法を説明するための仮の例です。工事費は税込の支払額とし、消費税の還付等は見込まず、預金利息も考慮しません。
| 資金計画の項目 | 予定・金額 |
| 3年後の設備更新 | 240万円 |
| 6年後の屋根・外壁工事 | 480万円 |
| 予定する支払額の合計 | 720万円 |
| すでに確保した修繕資金 | 180万円 |
| 今後6年間で準備する額 | 540万円 |
| 毎月の積立額 | 7万5,000円 |

図2 積立残高と工事代の支払時期を合わせた仮の修繕資金計画
540万円を72か月で準備するので、毎月7万5,000円です。これは相場の推奨額ではなく、この建物の仮の計画から逆算した金額です。
さらに、支払日に間に合うかも確かめます。3年後には180万円+7万5,000円×36か月=450万円。設備更新240万円を払うと210万円が残ります。その後3年で270万円を積めば、6年後の工事代480万円を用意できます。
総額が足りていても、工事のほうが先に来たら資金不足です。積立計画は、金額と日付をセットで作りましょう。
工事代が上がった場合も試しておきましょう
仮に、予定していた工事代がどちらも15%高くなるとしたら、合計は828万円。今ある180万円を引いた648万円を72か月で準備するには、毎月9万円が必要です。
月1万5,000円の差は、年18万円。見積りを何年も放置すると、この差が少しずつ積み上がります。15%は将来の値上がり予測ではなく、備えの厚さを確かめるための仮定です。
工事時期も固定しすぎないでください。漏水や危険な箇所は、積立予定に合わせて待ってもらえるとは限りません。計画修繕のお金に加え、緊急の支出に使える資金も分けて考えておきます。
一方、工事を実施したときも、支払額のすべてがその年の修繕費になるとは限りません。通常の維持管理・原状回復か、価値を高めたり使用可能期間を延ばしたりする支出かで、修繕費か減価償却する資産かを確認します。
次の物件を買う前に修繕予定を通帳に反映する
たとえば、まだ大きな工事を行わない年に、借入返済と予定納税を含む支出後、年間300万円が残るとします。このうち90万円を上の修繕計画に充てるなら、追加投資などに回す候補は年間210万円です。積立によって税務上の所得が90万円減るわけではありません。
「お金が残る」と「使う予定がないお金が残る」は、違うことがあります。修繕用口座を分ける利点は、税金を減らすことではなく、将来必要なお金を使い込まないことです。
10月のうちに、直近の点検結果と過去の工事明細を並べてみましょう。次の大きな工事がいつで、いくら必要か。分からなければ、そこから管理会社に聞いてみてください。来年の投資計画を立てる前に、今ある建物の予約済み予算を確かめておきましょう。
参考資料
[1] 国税庁「所得税基本通達37-2 必要経費に算入すべき費用の債務確定の判定」(掲示条項の最終改正は2011年)。
[2] 国税庁「賃貸の用に供するマンションの修繕積立金の取扱い」(2025年8月1日現在の法令等)。管理組合への積立金についての四つの要件。
[3] 国土交通省「民間賃貸住宅の計画修繕ガイドブック」9ページ。長期修繕計画と資金確保、積立額の調整。
[4] 国税庁「令和6年分 収支内訳書(不動産所得用)の書き方」2ページ(2024年10月1日現在の法令等)。修繕費と資本的支出の区分。































