「売却益が大きいので、次の物件を買って税金を抑えたい」。物件の入替えを考える大家さんには、気になる話ですよね。

条件が合えば使えるのが、事業用資産の買換えの特例です。ただし、税金が消える制度ではありません。課税の一部を先に送る仕組みです。そして、申告の時期になってから相談すると、必要な届出に間に合わない場合もあります。

今回は、個人の大家さんが、長く所有した国内の事業用不動産を買い換えるケースを考えます。

「賃貸物件を売って買う」だけでは足りません

対象となる組合せでは、売った年の1月1日時点で、売却資産の所有期間が10年を超えることが必要です。売る側・買う側の双方が事業用で、相当の対価を得て継続する貸付けなど、実態も確認します。自宅の買換えとは別の特例です。

取得は原則として売却した年、その前年、または翌年の所定期間内。取得後1年以内に事業に使うことも必要です。前年取得や翌年取得には、それぞれ届出・申告等の手続があります。「同じ年でないから手続不要」ではありません。

買う資産に土地が含まれる場合、この組合せでは、住宅など一定の施設の敷地で面積300㎡以上であることなどが条件になります。さらに、買換対象となる土地面積は原則として売った土地面積の5倍まで。超える部分は対象外です。建物だけを売って土地を買う計画や、共有持分のある土地は、面積の判定を先に確認しましょう。

2025年9月時点では、この長期所有資産の組合せに係る譲渡の適用期限は2026年3月31日です。他の特例との重複適用の制限や、地域等によって繰延割合が変わる条件もあるため、購入候補の住所が決まった段階で適用を確認します。

3,200万円の利益が、将来へ引っ越します

架空の例です。旧物件を8,000万円で売り、税務上の取得費は償却後で4,000万円。要件を満たす新物件を9,000万円で購入するとします。対象資産の全額に特例が使え、繰延割合は80%、売買の諸費用は省略します。

比較する項目 特例を使わない この例で特例を使う
今回の課税対象となる譲渡益 4,000万円 800万円
将来へ繰り延べる譲渡益 0円 3,200万円
新物件の税務上の取得価額 9,000万円 5,800万円

通常の利益は8,000万円-4,000万円=4,000万円。その80%の3,200万円を繰り延べるため、今回の課税対象は800万円になります。代わりに、新物件の税務上の取得価額は、9,000万円-3,200万円=5,800万円となります。

この差が、将来に影響します。次に売却するときの取得費が小さくなり、建物に配分される取得価額が減れば、保有中の減価償却費も少なくなります。土地は減価償却できません。土地・建物への配分も含め、「購入代金9,000万円をそのまま経費計算の土台にできる」と思わないでください。

図7 買換え特例の繰延べと新物件の取得価額。本文の仮定による計算。

先に売っても、先に買っても、届出の時計は動きます

2024年4月1日以後の譲渡・取得について、同一年内に売却と取得をする場合には、新たな届出が必要です。提出期限は、譲渡日と取得日の早い方が属する3か月の区切りの末日の翌日から2か月以内です。

たとえば、2025年7月15日に売却し、同年10月20日に購入する予定なら、先に起きるのは7月の売却。7〜9月の区切りで判定し、原則の期限は11月末です。2025年11月30日は日曜日なので、この場合の提出期限は12月1日になります。

「確定申告で一緒に出そう」では遅いのです。反対に、先に取得して年内に売却する計画でも、取得日から同じ判定をします。この届出だけで特例適用が完了するわけではなく、確定申告と必要書類の添付も必要です。

税金が軽くなる年も、購入資金は別に必要です

先ほどの例で、売却時に旧ローン2,500万円を返すなら、売却代金8,000万円から残るのは5,500万円。9,000万円の購入には、差額3,500万円に加え、諸費用や納税分の資金も手当てしなければなりません。

買換えの特例は、借入金を減らしてくれる制度ではありません。今回の税負担、将来の減価償却、次の売却時の税金、毎月の返済を並べて、初めて使う価値が見えてきます。

売却を決める前に、旧物件の取得資料、償却明細、土地の面積、購入候補、売買予定日、借入残高を一式で税理士へ。「今回いくら減るか」に加えて、「次に何が残るか」まで試算してから契約しましょう。

※制度は2025年9月時点を前提としています。金額は架空例で、適用には個別の要件確認が必要です。

参考資料

[1] 国税庁「令和6年分 確定申告書等作成コーナー/措置法37条」

[2] 国税庁「個人の方が株式等や土地・建物等を譲渡した場合の令和5年度税制改正のあらまし」3〜4頁

[3] 国税庁「令和6年分/事業用資産の買換えの特例を受けて買い換えた資産の取得価額と減価償却費」

[4] 国税庁「A4-8 特定の事業用資産の買換えの特例の適用に関する届出」

[5] 国税庁「国税通則法基本通達 第10条関係 期間の計算及び期限の特例」/国税通則法10条2項