「うちは不動産賃貸業だから、入ってきたお金は全部、同じ区分でいいですよね?」

消費税の簡易課税で、この考え方をすると計算がずれることがあります。とくに注意したいのは、長く貸していた建物を売った年。いつもの家賃と、建物の売却代金は、同じ大家さんの収入でも区分が異なるからです。

今回は、国内で事業を行う課税事業者について、届出や基準期間の課税売上高などを確認済みで、簡易課税の適用要件を満たす課税期間を前提にお話しします。免税事業者や、一般課税・2割特例による計算の話ではありません。

簡易課税は「実際の経費」で差し引く制度ではありません

簡易課税は、売上げに係る消費税額に、事業区分ごとの「みなし仕入率」を掛けて、控除する税額を計算する仕組みです。原則として事前の選択届出が必要で、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることなどが条件になります。

つまり、税額を左右するのは「この売上げは、どの区分なのか」という判断です。会社名や開業届に書いた業種で、すべての取引を一括判定するわけではありません。

ここで「不動産だから第6種」とまとめたくなりますが、いったん手を止めてください。家賃を受け取る取引と、自分の固定資産を手放す取引は、内容が違います。

店舗家賃は第6種、使っていた建物の売却は第4種

店舗などの課税される賃貸収入は、第6種事業で、みなし仕入率は40%。一方、事業で使っていた固定資産の売却は第4種事業で、60%です。実際に賃貸に使用してきた建物の売却も、この固定資産の取扱いを確認します。

「建物の売却」なら全部同じ、という意味ではありません。販売用の商品として仕入れ、そのまま転売する建物などは別の判定になります。帳簿の科目名だけを変えて、都合のよい区分を選べるわけでもありません。

住宅の貸付けは、原則として消費税が非課税です。住宅家賃に40%を掛けるのではありません。また、土地の売却も非課税なので、土地と建物を一括で売る場合は、その区分も必要です。

同じ売上げでも、区分ミスで20万円の差

架空の例として、店舗家賃が税抜800万円、賃貸に使っていた固定資産の建物の売却代金が税抜1,000万円だったとします。すべて10%税率で、土地代は含めません。

取引 売上げに係る税額 みなし仕入率 納付額の概算
店舗家賃800万円・第6種 80万円 40% 80万円×60%=48万円
固定資産の建物売却1,000万円・第4種 100万円 60% 100万円×40%=40万円
合計 180万円 取引ごとに適用 88万円

もし全額を第6種で計算すると、180万円×60%=108万円。上の88万円と比べ、20万円多い計算になってしまいます。

この表は国税・地方税を合わせた仕組みの概算で、実際の申告では所定の計算・端数処理をします。売上返品などの調整はなく、いずれか一つの事業の課税売上高が全体の75%以上となる場合の特例も使わない例です。

図6 本文の仮例における納付額の概算。適正な区分の確認による差です。

区分の確認は、売却価格を交渉するのと同じくらい、手元資金の見込みに関わる作業です。ただし、この差額は新しい節税策の効果ではなく、正しい区分で計算した結果ですよ。

決算のときではなく、売買契約の前に確認を

建物を売る予定があるなら、税理士に「簡易課税です」と伝えるだけで終わらず、その建物の購入時期、購入目的、実際の賃貸履歴、固定資産台帳、売買契約案をまとめて渡しましょう。

会計データでも、住宅家賃、店舗家賃、固定資産の建物売却、土地売却を区別しておくと確認が進みます。簡易課税で複数の事業を営み、売上げを区分していない部分は、該当する事業のうち低いみなし仕入率で計算する取扱いがあるため、証拠を残すことにも意味があります。

これから簡易課税を選ぶ方は、当期の税額だけで決めないでください。届出期限や継続適用の制限、今後の取得・売却予定も含めて比較が必要です。

物件を売った年ほど、「いつもの処理」が本当に合っているかを確認する。大きな入金に目を奪われる前に、税金の出口も見ておきましょう。

※制度は2025年9月時点を前提としています。金額は架空の計算例です。

参考資料

[1] 国税庁「No.6505 簡易課税制度」

[2] 国税庁「日本標準産業分類からみた事業区分(不動産業等)」

[3] 国税庁「消費税法基本通達 第13章第2節」13-2-1、13-2-9

[4] 国税庁「消費税法令の改正等のお知らせ(平成26年4月)」第6種事業の創設・2015年4月以後の適用