家賃の集計、修繕の領収書、ローンの利息。確定申告の準備は、物件だけでもなかなかの荷物です。

そこに証券会社の年間取引報告書。「株は源泉徴収ありの口座だから、今回は見なくていいか」。その一言で、別の口座との損益通算や、損失の繰越しを見落とすことがあります。

9月のうちに確認したいのは、株価の予想ではありません。申告するとき、どの口座の数字をそろえるか、という準備です。

株の赤字は、家賃の黒字と混ぜられません

まず、ここを押さえましょう。上場株式等の売却損は、不動産所得の黒字から差し引けません。家賃の所得が300万円、株の売却損が90万円だから、課税される家賃の所得が210万円になる、という計算にはならないのです。

一方、対象となる上場株式等の売却損は、他口座の上場株式等の売却益や、申告分離課税を選んだ上場株式等の配当等と、確定申告によって通算できる場合があります。

同じ「投資」でも、税務上は相殺できる範囲が決まっています。家賃と株を一つの財布で管理していても、申告書まで一つの箱に放り込まないようにしましょう。

3つの口座を並べると、見える景色が変わります

国内に住む個人大家さんの架空例です。国内の証券会社で保有する、源泉徴収ありの特定口座を使い、NISA口座や大口株主等の配当には当たらないものとします。次の数字が、その年の最終結果だったと仮定します。

口座 内容 年間の損益・税引前配当
A証券 上場株式の売却損 ▲900,000円
B証券 上場株式の売却益 500,000円
C証券 対象となる上場株式の配当 100,000円
通算後 配当も申告分離課税で申告 ▲300,000円

計算は、▲90万円+50万円+10万円=▲30万円。証券会社が違えば、各社が自動で全口座を合算してくれるわけではありません。対象の口座を確定申告に載せて、通算します。

BとCで、それぞれの利益・配当に20.315%の税金が差し引かれているとすると、その合計は60万円×20.315%=121,890円です。この部分は、通算による税金の精算対象になります。所得税等と住民税では精算の方法が異なり、実際の還付・控除額は申告全体の内容で確認します。

なお、売却していない株の「含み損」を、この計算に入れることはできません。証券口座の評価額が減っただけで、申告に使える損失が発生するわけではないのです。

残った損失には、3年という使用期限があります

この例の残り30万円は、必要な申告をすれば、翌年以後3年間、対象となる上場株式等の売却益や申告分離課税の配当等から控除できます。2025年の損失なら、対象となるのは2026〜2028年分です。

ただし、「赤字が出た年に一度申告して、後は自動更新」ではありません。損失が出た年に必要な明細書・付表を付けて申告し、その後も連続して必要な申告を行います。取引がなかった年も、繰越しのための申告を忘れないことが大切です。

NISA口座で生じた売却損は、この損益通算や繰越控除には使えません。また、知人への相対売却など、対象から外れる取引もあります。単に「上場株の損なら何でも使える」とは考えないでください。

申告ボタンを押す前に、口座を全部見ましょう

源泉徴収ありの特定口座は、原則として口座ごとに申告するかどうかを選べます。ただし、その口座の譲渡損失を申告する場合、同じ口座に受け入れた配当等も併せて申告する必要があります。

そして、一度「申告不要」を選んで確定申告した所得を、後から修正申告や更正の請求で申告に加えることはできません。反対に、申告した所得を申告不要に戻す変更もできません。単なる計算ミスの訂正とは別の問題です。

申告に含めることで、国民健康保険料などに影響する場合もあります。2024年度の住民税から、対象の配当・株式譲渡所得について、所得税と住民税で異なる課税方式は選べません。還付額だけでなく、ご自身の負担全体で比べましょう。

今やることはシンプルです。利用している証券会社と口座の種類を一覧にし、年が明けたら全社の年間取引報告書をそろえる。家賃の申告を提出する前に、株の資料も同じテーブルへ。置き忘れを防ぐことが、手元のお金を守る第一歩になります。

※制度は2025年9月時点を前提としています。計算例は架空で、年間損益の予測や売買の推奨ではありません。

参考資料

[1] 国税庁「令和6年分 株式等の譲渡所得等の申告のしかた/株式等の譲渡所得等のあらまし」31〜41頁

[2] 国税庁「No.1474 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除」