海外赴任、海外での起業、長期の移住。「日本の物件は管理会社に任せれば大丈夫」と思っていませんか。
管理を任せることと、税金の準備は別のお話です。引っ越した後、契約では月20万円の家賃なのに、口座には15万円台しか入らない。そんなことが起こり得ます。管理会社の計算ミスを疑う前に、確認したいのが「非居住者への家賃の源泉徴収」です。
住民票を動かしただけでは決まりません
所得税では、国内に住所がある人、または国内に引き続き1年以上居所がある人を「居住者」とし、それ以外の人を「非居住者」とします。住所は生活の本拠。住まい、仕事、家族の居住状況など、客観的な事実から判断します。
つまり、「海外に183日いた」「住民票を抜いた」という一つの事実だけで、自動的に非居住者になるわけではありません。海外勤務の予定期間などによる推定の規定もあり、出入国日数だけの判定は禁物です。
ここで大切なのは、ご自身の希望と税務上の区分を分けること。日本の生活基盤をどの程度残すか、海外では何をするかを整理しましょう。相手国でも居住者に当たる場合などは、租税条約を含めた確認が必要です。
同じ住宅でも、借りる相手で入金が変わります
非居住者になっても、日本国内の不動産から生じる家賃は、日本での課税対象です。そして、その家賃を国内で支払う人には、原則として20.42%の所得税・復興特別所得税を差し引いて納付する義務があります。
ただし、個人が、自分や親族の居住用として借り、その家賃を支払う場合は、源泉徴収が不要になる例外があります。法人が社宅として借りるケースは、この「個人が支払う」例外に入りません。
架空の例で見てみましょう。非居住者である個人大家さんが、国内の会社に住宅を社宅として貸し、会社が国内で月20万円を支払うケースです。管理料など、ほかの差引きはないものとします。
| 1か月のお金の動き | 金額 |
|---|---|
| 契約上の家賃 | 200,000円 |
| 支払側が差し引く税金:20万円×20.42% | 40,840円 |
| 大家さんへの入金 | 159,160円 |
| 同じ条件が12か月続いた場合の源泉徴収額 | 490,080円 |
この差は、家賃の値引きではありません。税金の前払いです。住宅家賃の消費税が非課税かどうかとは、別の仕組みなので、ここは混ぜないでくださいね。

図5 本文の仮例における家賃の入金と源泉徴収の内訳。
税金の前払いでも、毎月の返済は待ってくれません
「最後に精算するなら、気にしなくていい?」と思った方。年間49万80円が、いったん手元から離れる点は見逃せません。
仮に、ローン返済と管理費などの支払いが毎月17万円なら、家賃20万円をそのまま受け取る想定では3万円の余裕があります。しかし、この例の入金は159,160円。ほかの入金や資金を考えなければ、月10,840円の不足です。税務上の利益計算とは別に、入金ベースの資金表が必要になります。
また、源泉徴収額をそのまま最終的な税額と思い込まないこと。申告が必要な場合には、国内不動産の収入や必要経費などから税額を計算し、源泉徴収済みの税金を精算します。還付になることもありますが、必ず全額が戻るわけではありません。
出国前に「誰が何をするか」を決めましょう
準備するのは、航空券だけではありません。まず税理士に、転居予定日、海外での仕事、家族の生活拠点を伝え、いつからどの区分になるのかを確認しましょう。
次に、管理会社と借主への連絡です。契約相手は個人か法人か、用途は何か、誰が支払い・源泉徴収・納付を担うかを整理し、切替時期を共有します。借主が個人でも事業用なら、居住用の例外とは扱いが異なります。
国内で申告等を行う必要がある方は、納税管理人の選任・届出も確認してください。通常の管理委託をしただけで、納税管理人の手続まで完了するわけではありません。
出国前に一度、家賃の入金予算を作り直す。これだけでも、海外の新生活と日本のローン返済が、通帳の中でけんかするのを防げます。
※制度は2025年9月時点を前提としています。金額は仕組みを説明するための架空例です。
参考資料
[1] 国税庁「令和7年版 源泉徴収のあらまし/非居住者又は外国法人に支払う所得の源泉徴収事務」272〜274・278・303〜304頁































