賃貸物件を保有する会社を、株式ごと買う。物件を増やす方法の一つですが、購入代金以外にも専門家への費用が発生します。

契約や税務を調べる「DD」という言葉を耳にするかもしれません。これはデューデリジェンス、つまり買収前調査のこと。会社の中身やリスクを、買う前に確かめる作業です。

では、その調査費用は、支払った年の経費になるのでしょうか。買収後の納税資金を考えるなら、ここを先に確認しておきたいですね。

調査してもらった費用が、株式の値段に入ることがあります

法人が購入した株式の税務上の取得価額には、購入代金だけでなく、購入のために要した費用が含まれます。

買収前調査費用や仲介・助言の報酬なども、その株式購入に直接結び付き、購入のために要した費用に該当するものは、株式の取得価額に含めます。調査対象が特定の会社だった、という一事だけで決めず、業務の内容と購入との関係を確認します。国税庁の申告書確認資料にも、株式の取得価額に算入すべき買収前調査費用への注意が示されています。

「請求書が届いた」「勘定科目を支払手数料にした」ということだけでは、当期の損金にはできません。購入した株式に結び付く費用かどうかを、実際の業務内容から確認します。

買収代金8,000万円でも、税務上の取得価額は8,500万円ということも

次は、会社が他社の株式を取得し、調査費用と成功報酬の全額が取得のために要した費用に該当すると確認できた仮例です。金額は消費税等の影響を省いています。

支払う内容 仮の金額 この例の税務処理
株式の購入代金 8,000万円 株式の取得価額
対象会社の財務・法務調査費用 200万円 株式の取得価額に加算
株式取得を成立させた成功報酬 300万円 株式の取得価額に加算
合計 8,500万円 株式として計上

調査費用などの500万円は現金で出ていきますが、この例では当期の経費として一度に落ちません。株式の取得価額に入った金額を、建物のように毎年減価償却することもできません。

もし資金計画で「500万円の経費が増えるから、その分、税金も減る」と見込んでいたら、修正が必要です。ほかの条件が同じなら、損金になると想定していた500万円分だけ、課税所得の見込みが変わります。税額への影響は会社の所得や税率などで異なります。

買収が無事に終わってひと安心。そのあとに納税資金が足りない、という展開は避けたいところです。

取締役会の前か後か、カレンダーだけで決めない

「正式に買うと決める前の調査だから、全部経費ですよね?」

そう言い切る前に、何を目的に依頼した仕事かを確認しましょう。購入のために要した費用を取得価額に含めるという原則は、請求書の日付や決議日だけで判定する仕組みではありません。

幅広く投資候補を探すための一般調査と、特定の会社を買うために行う財務調査では、購入との結び付きが異なります。委託契約書、調査範囲、報告書、交渉経緯、実際に取得した株式との関係を並べて判断します。

同じ「調査料」でも、会社を広く探す仕事と、契約交渉・取得手続までを支援する仕事が一つの請求書に混ざることがあります。実態に沿った内訳を、依頼時から整理しておきましょう。

また、国税庁には、吸収合併に伴う買収前調査費用について、一時の損金とする公表事例もあります。ただし、それは合併の事例です。「企業を買う話だから同じ」と、株式購入にそのまま当てはめることはできません。

見積りを取るときに、税務上の区分も相談する

買収前調査を依頼する際は、費用の見積りと一緒に、対象会社、仕事の範囲、成果物、報酬が発生する条件を確認してください。買収を中止した場合の費用についても、別に把握できると検討が進みます。

税理士には、予定する取引の形、委託契約書、調査報告書、意思決定の経緯を共有し、今期の損金と株式の取得価額に分けた資金計画を依頼しましょう。会計上の費用処理や、消費税の仕入税額控除も、それぞれ確認が必要です。

買収前調査には、買った後の見込み違いを減らす役割があります。その費用の税務処理も、購入前に確かめておけば、現金の見込み違いを減らせます。株式代金だけを購入予算にせず、専門家費用と納税資金まで並べて検討してみてください。

参考資料

[1] 国税庁「大規模法人における税務上の要注意項目確認表」平成30年2月版、3頁「有価証券」。法人税法施行令119条、法人税基本通達2-3-5に基づく取得費用の説明。

[2] 国税庁「申告書確認表【留意事項】令和2年4月1日以後開始連結事業年度等分」6頁、項目40。過去の連結申告資料から、株式取得価額に含める調査費用が存在する点のみを参照しています。

[3] 国税庁「合併に伴うデューディリジェンス費用の取扱い」(令和7年8月1日現在)。