「相続対策で、資産管理会社の株を評価してもらいました。この金額で、子どもの会社に売ればいいですか?」
使える資料があるのは心強いですね。ただ、その評価書は、誰の、どの税金のために作ったものでしょうか。
同じ会社の株でも、相続・贈与の評価と、売買で問題になる税務上の価額は、前提が違うことがあります。古い評価書を、そのまま売買契約書の価格欄へ貼り付ける前に、用途を確認しましょう。
最初の質問は「1株いくら?」より「誰から誰へ?」
非上場株式の評価では、会社の資産だけでなく、株主の立場や取引の内容も重要です。相続・贈与では、取得者と同族関係者の議決権などに応じて評価方法を判定します。
一方、個人が法人に株式を著しく低い価額で譲渡する場合などは、所得税法59条に基づく時価での課税が問題になります。その評価については、所得税基本通達59-6に独自の読替えや条件があります。
| 予定していること | 主に確認する税務の入り口 |
|---|---|
| 親から子へ株式を贈与する | 子の贈与税。取得者側の株主区分など |
| 親個人から資産管理会社へ売る | 親の所得税と、買う法人の法人税をそれぞれ確認 |
| 法人が他の法人・個人へ売る | 売る法人の法人税と、買う側の課税関係を確認 |
「親族同士だからこの方法」と一つにまとめることも、「評価額は安いほうを選ぶ」と考えることもできません。まず取引の登場人物と税目を決めます。法人税上の評価にも条件があり、相続税の計算を無条件で流用する扱いにはなっていません。
10%だけ売っても、売り手が小さな株主になるとは限りません
仮に、発行済みの普通株式が100株で、父が80株、母が20株を持つ会社があるとします。父が、そのうち10株を子の会社へ売る計画です。
「買う会社は10株だけだから、少数株主向けの安い評価でよさそう」。ここで、立ち止まりたいところです。
所得税法59条の適用に関する評価では、株式を譲渡する個人の、譲渡直前の議決権などで判定します。この例の父は、譲渡直前には80株を持っています。買い手が取得する10%だけを見て、配当還元方式という少数株主等向けの評価に決めることはできません。
国税庁は2020年に、この読替えや判定について説明資料を公表しています。大切なのは「渡す株数」と「渡す人の立場」を両方確認すること。小さく切り分けたから、税務上の立場まで自動的に小さくなるわけではありません。
不動産を持つ会社は、株の中に土地が入っています
大家さんの資産管理会社では、ここも見逃せません。株式の純資産価額を計算するとき、会社の土地をどの価額で評価するかが、株価に響きます。
所得税基本通達59-6による評価では、純資産価額の計算上、土地等を譲渡時の価額で評価し、評価差額に対する法人税額等相当額を控除しないなどの条件があります。相続税の評価書と金額が違う原因になる部分です。
相続・贈与の側でも、土地の保有割合や会社規模によって土地保有特定会社に当たるかを確認します。また、純資産価額方式では、課税時期前3年以内に取得・新築した土地や建物等について、通常の取引価額に相当する金額で評価する取扱いがあります。
「会社名義に移したら、すぐに株価が大きく下がるはず」という見込みは、実際の評価で確かめたいですね。借入金の額だけを見て判断するのも早計です。土地・建物、預金、負債を同じ基準日の資料で並べましょう。
契約前に、評価書の表紙へ四つ書き込む
用意したいのは、「評価する日」「誰が渡すか」「誰が受け取るか」「何の税金を検討するか」の四つです。これに、移転前後の株主名簿と親族・法人の関係図、直近の決算書、不動産の資料を添えます。
そのうえで、価格の根拠と、売る側・買う側それぞれの税負担を確認しましょう。独立した第三者との売買実例がある場合も、その価格が成立した経緯や条件が資料になります。
株式を動かしてから評価の前提違いに気付くと、予定していなかった納税や契約の調整が生じかねません。評価書は、使う場面が分かってこそ役立つ道具です。売買の話が出たら、まず表紙の四項目を埋めてみてください。
参考資料
[1] 国税庁・財産評価基本通達185、188(純資産価額、同族株主以外の株主等)。
[2] 国税庁「所得税基本通達59-6の改正に係る趣旨説明」令和2年9月30日。譲渡人・譲渡直前への読替え、土地の価額、法人税額等相当額の取扱い。































