「親のアパートに空室があった。相続税で不利になりますか?」

気になりますよね。ただ、ここで「空室だから全部だめ」と片づけるのは早すぎます。反対に、「募集広告を出しているから大丈夫」と決めるのも早計です。

賃貸アパートの土地には、名前も見た目も似ている二つの仕組みが登場します。今日は、この取り違えをほどいていきましょう。

似た名前でも、見ているものが違います

一つは「貸家建付地」の評価です。読み方は、かしやたてつけち。借家人がいる貸家の敷地について、所有者が自由に利用できない事情を評価額に反映させるものです。

もう一つは、小規模宅地等の特例の「貸付事業用宅地等」。一定の要件を満たす賃貸事業の土地について、相続税の計算に入れる価額を減らす制度です。

比べる点 貸家建付地の評価 貸付事業用宅地等の特例
何を計算する? 貸家の敷地としての評価額 特例による課税価格の減額
空室で確認すること 一時的な空室として賃貸割合に含められるか 一時的な空室を含め、貸付事業が続いているといえるか
計算上のポイント 借地権割合・借家権割合・賃貸割合 原則200㎡まで50%減額。要件や併用制限あり

つまり、同じ部屋でも、それぞれの制度で確認が必要。片方の判定結果を、そのままもう片方へコピーすることはできません。

空室期間だけで判定する「自動改札」はありません

貸家建付地の賃貸割合は、原則として相続開始時に貸している独立した部屋などの床面積で計算します。ただし、継続的に貸していた部屋の一時的な空室は、賃貸中の部分に含められる場合があります。

国税庁は、過去の賃貸実績、退去後の速やかな募集、別用途への転用の有無、空室期間、その後の賃貸状況などから総合的に判断するとしています。「例えば1か月程度」という説明はありますが、「31日目から必ず不可」という日数だけのルールではありません。長引いた空室まで当然に認められるわけでもありません。

一方、小規模宅地等の特例では、空室になった直後から募集を続け、いつでも入居できる状態を維持している場合に、空室部分を含めて貸付事業用と認める国税庁の説明があります。

このため、貸家建付地の賃貸割合と、特例の対象になる範囲は別々に検討します。ただし、特例でも空室の「一時性」は必要です。募集を続けていれば何年空いていてもよい、という制度ではありません。実際に貸せる状態、空室期間、再び貸せる具体的な見込み、募集の実態を確かめましょう。募集広告が残っていても、再び貸せる客観的な状況が確認できず、対象外とされた裁決があります。

二つとも使えるなら、計算は順番に

仕組みを見るため、空室のない架空の例で計算しましょう。

土地は180㎡、自分で自由に使える土地としての評価額が5,000万円。借地権割合60%、借家権割合30%、賃貸割合100%と仮定します。借地権割合と借家権割合は、それぞれ土地・建物を借りる権利を評価するための割合です。

貸家建付地の評価額は、5,000万円×(1-60%×30%×100%)=4,100万円です。

さらに、この180㎡すべてが貸付事業用宅地等の要件を満たし、ほかの宅地との併用制限もないなら、特例適用後は4,100万円×50%=2,050万円となります。

減額割合を足し算するのではなく、順番に計算するのがポイントです。そして、2,050万円は納める税金の額ではありません。相続税の計算に入れる、この土地の価額です。

図2 二つの制度は順番に計算します。本文の仮例による土地の価額で、税額ではありません。

募集の記録は、家族に残せる資料です

大家さんにお願いしたいのは、部屋ごとの「退去日・募集開始日・工事完了日・次の入居日」を残すこと。広告の掲載履歴、管理会社とのメール、修繕の写真も、一緒に保管しておきましょう。

もちろん、小規模宅地等の特例には、親族が貸付事業を引き継いで申告期限まで続けること、土地を保有することなどの要件があります。相続前3年以内に新しく貸付けを始めた土地は原則として対象外となり、一定の事業を継続してきた場合の例外もあります。

まずは管理会社に、「入退去と募集の履歴を一覧でもらえますか」と頼んでみませんか。家賃を生むために続けてきた管理の仕事を、相続の場でも説明できる形にしておきましょう。

参考資料

[1] 国税庁「貸家建付地等の評価における一時的な空室の範囲」(令和7年8月1日現在)

[2] 国税庁「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例に係る相続税の申告書の記載例等について(情報)」(令和3年4月1日、事例6・18~19ページ)

[3] 国税庁「相続税の申告のしかた(令和7年分用)」(16~20ページ)

[4] 国税不服審判所「令和5年4月12日裁決」(貸付事業用宅地等と空室部分の判断)