
東雲結子「わっ、大きな荷物! 冷蔵庫でも買ったんですか?」
入居者「靴下です」
東雲結子「靴下、ずいぶん広いお部屋にお住まいで……」
入居者「この箱、宅配ボックスに入らなくて、再配達になったんです」
東雲結子「じゃあ、大きい区画を増やしましょう!」
管理担当「大きい区画はあります。今は別の荷物が3泊目です」
東雲結子「靴下は豪邸、段ボールは連泊。うち、荷物へのサービスが手厚すぎません?」
管理担当「まず、人が受け取れるようにしましょう。通知が届いているか確認します」
再配達でようやく届いた、大きな段ボール。中身と箱の大きさに驚く東雲さんですが、見るべきなのは、届いた箱の大きさだけではありません。大きい区画が長く埋まっていたり、受取通知に気付けなかったりすると、立派な宅配ボックスがあっても荷物を受け取れないのです。
増設のボタンを押す前に、どこで荷物が止まっているか調べてみませんか。今回は、サイズ・受取時間・故障を整理し、最後は「導入費を回収するには、空室を何か月減らす必要があるか」まで計算します。
空き箱はあるのに受け取れない。足りないのは、本当に台数?
管理会社には、まず「最近、使えなかった理由は何ですか」と聞いてみてください。単に台数が少ない場合と、荷物のサイズが合わない場合では、買うべき物も変わります。
| 観察できた状態 | 最初に確認すること | お金をかける候補 |
| 小区画は空くが大区画は埋まる | 入らなかった荷物の大きさ | 大区画への変更・追加 |
| 同じ荷物が数日残る | 通知が届くか、受け取れない事情は何か | 通知・連絡手順の改善 |
| 空きがあるのに使われない | 配達側の利用条件、操作案内、登録の有無 | 表示や案内の改善 |
| 一部が故障したまま | 修理費、部品、復旧までの日数 | 修理と更新の比較 |
国土交通省の宅配に関する手引きでも、受取りできるサイズを広げることや、利用方法を伝えることが普及のポイントとして扱われています。[1] 大家さん側も、「有る・無い」の設備点検から、「何が詰まっているか」の運用点検へ進めます。
二週間ほど、管理会社の問合せ記録や巡回で確認できた情報を集めてみましょう。記録するのは日時、使えなかった理由、区画の状態など必要な範囲です。荷物の中身や購入先を調べる必要はありません。段ボール探偵に就任しても、家賃は増えないので。
ただし、二週間の記録が年間を代表するとは限りません。引越しの時期や大型セールの後など、利用が集中する期間も別に確かめると、普段は余るのに年数日だけ足りない問題を見分けやすくなります。
荷物が3泊したら、次のお客さんが入れません
荷物が取り出されれば、その区画を次の荷物に使えます。ここで見るのは、設置した箱の数だけでなく、一個の荷物がどのくらい区画を使うかです。
たとえば四区画があり、一件が平均二日間入ったままなら、単純化した机上計算では一日あたり約二件分の処理量です。平均一日で空けば約四件分になります。これは到着が均等で、荷物のサイズも合い、故障もないとした説明用の計算です。実際の受取可能件数を保証するものではありません。
それでも、「箱を倍に買う前に、通知が届いているか調べよう」という判断にはつながります。入居者の登録が未完了、通知先が古い、解錠方法が分かりにくい、といった原因なら、設備の追加購入だけでは直りません。
利用案内は、写真と短い手順を組み合わせます。必要に応じてやさしい日本語や他の言語で補い、実際に操作してもらいます。年齢や国籍で得意不得意を決めず、その人が使えるかで確かめるのが実用的です。操作部の高さや、重い荷物を取り出せる位置かも現地で見ましょう。
長く残る荷物については、連絡する時点、担当者、本人確認、対応できない場合の相談先を決めます。「今日から大家の判断で開けて捨てます」では、問題の種類を増やしてしまいます。規約、管理権限、メーカーの手順を確認し、個々の事情に応じて対応します。
すぐ増設? その見積りの前に、修理と案内を比べよう
業者さんへは「同じ機種をもう一台」だけでなく、解決したい問題を伝えます。大きい荷物が入らないなら、小区画ばかり増やす見積りは目的と合っていません。箱の数が増えても、段ボールは遠慮して縮んでくれません。
| 対応案 | 効果が出そうな場面 | 見積りで確かめること |
| 既存区画の修理 | 故障が主な原因 | 部品代・出張費・保守対象・復旧日 |
| 案内・通知の改善 | 未登録や受取方法の不明が多い | 初期設定費・通信費・管理の手間 |
| 大区画の追加 | サイズ不足が主な原因 | 実際の内寸・設置工事・固定方法 |
| 本体ごとの更新 | 修理困難や複数の問題がある | 旧設備撤去・配線・契約解約・運用変更 |
本体価格のほかに、工事、電気・通信、点検、故障時の出張、撤去まで書き出します。既存の保守契約に含まれる作業を別途費用へ二重に入れないことも大切です。
そして、効果が出るまでの期間を見ます。安く直せても部品の到着まで長期間使えない案と、費用は高くても早く復旧する案では、入居者への説明や管理の負担が違います。価格と復旧日を同じ表に置くと、大家さんの判断が具体的になります。
36万円を取り戻すには、空室をどれだけ減らせばいい?
以下は実際の相場ではなく、導入判断のための架空の計算です。本体・設置で36万円、維持費が年1万2,000円、五年間使う想定とします。金額は税込の支払額として置き、消費税の納付・控除、所得税等、借入、撤去費、資金の時間価値は含めません。実案件では該当するものを加えます。
五年間の支出は36万円+1万2,000円×5年=42万円。年平均では8万4,000円です。これは減価償却費ではなく、比較用に支払額をならした数字。初年度には36万円と維持費を払うので、口座に8万4,000円だけ入れておけば足りるわけではありません。
家賃月6万円、増えた家賃にも管理料5%がかかり、その他の費用は変わらないと仮定すると、一戸の空室を一か月短縮して増える手残りは、6万円×95%=5万7,000円です。
| 物件全体で一年に減る空室期間 | 管理料控除後の収入増 | 年平均費用との差 |
| 一戸・一か月分 | 57,000円 | −27,000円 |
| 一戸・1.5か月分 | 85,500円 | +1,500円 |
| 一戸・二か月分 | 114,000円 | +30,000円 |
分かれ目は84,000円÷57,000円=約1.47か月分。五年間で見れば、合計約7.37か月分の空室短縮が必要です。これは一戸で全部短縮する意味ではなく、物件全体の「一戸当たり一か月」の合計です。
しかも、宅配ボックスだけでそれだけの改善が起きるかは別の問いです。すでに空室がほとんどない物件なら、この回収方法には余地が少ないかもしれません。反対に、内見のたびに受取設備を確認され、そこで申込みを逃しているなら、検討材料になります。都合のよい空室を電卓の中だけに発生させないことです。
家賃も上がる、空室も減る。期待を二重に計上していませんか?
導入後の家賃増額を見込むなら、実際にその条件で募集・契約できるかを確認します。既存契約の変更は個別に検討し、全室が翌月から一斉に高くなる前提にはしません。
仮に新たな二戸の契約で月300円ずつ高い家賃となり、その条件で一年間入金があるなら、増収は7,200円。管理料5%を引くと6,840円です。年平均費用84,000円との差は77,160円。残りを先ほどの空室短縮だけで埋めるなら、77,160円÷57,000円=約1.35か月分になります。
この計算でも、家賃が上がった理由を宅配ボックスだけに決めつけることはできません。室内リフォームや募集時期が同時に変われば、それぞれの影響を完全には切り分けにくいからです。広告費の削減なども、実際に減った分だけを入れ、同じ改善を別名で二度足さないようにします。
導入後に見る指標は、多すぎなくて十分です。「使えなかった件数と理由」「長く残った荷物への問合せ」「内見時の反応」「実際の家賃と空室日数」を、導入前の同じ時期と比べます。満足度を上げる効果と、投資を回収する効果の両方を確かめましょう。
荷物は置けた。でも人が通れない。それでは困ります
最後は置き場所です。閉じた状態で収まるだけでなく、扉を開け、人がかがんで荷物を出す動作まで確認します。防犯設備、車いす等の通行、避難の動線への影響も現地で相談してください。
国土交通省の2025年3月通知は、廊下や階段などに避難の支障となる状態で宅配物を放置することは禁止される一方、支障のない少量・小規模の物を一時的に置く場合まで一律に禁止するものではない、と整理しています。個別の幅や形状で判断が変わるので、「箱が満杯なら廊下のどこでもどうぞ」にはできません。
置き配も活用するなら、場所、置ける期間、対象外の荷物、連絡と責任の分担を具体化します。通知にある「24時間」などはルールの例で、全国一律の保管期限ではありません。[2]
最初の一手は、管理会社と二週間分の「受け取れなかった理由」を集めること。 その結果を持って、修理・運用改善・増設を比べてください。大家さんの利益につながるのは、カタログに並ぶ箱の数より、入居者が実際に便利だと感じる使い方です。
参考資料
[2] 国土交通省「マンションにおける置き配の普及促進に向けた取組のポイントについて(周知)」(2025年3月27日。2024年6月7日の使用細則のポイントを添付。避難上の支障、置き場所・期間・責任等)































