「建物の金額を大きくすれば、減価償却費が増えてお得ですよね?」
アパートを買うとき、つい気になる話です。土地は減価償却できず、建物は年々の経費になる。だったら建物を多めに、という発想は分かります。
按分(あんぶん)とは、ここでは購入総額を土地と建物に分けることです。
ただ、土地と建物の按分は、好みで大きく切ってよいケーキとは違います。税務上説明できる金額であることが必要です。そして、その内訳は購入後の毎年だけでなく、将来売るときにもついてきます。
契約書に書いた金額なら、何でも通るのでしょうか
最初に確認するのは、売買契約書の土地と建物の内訳です。適切な内訳があるなら、それを出発点にします。
「固定資産税評価額で分けたほうが有利だから」と、後から好きな方法に変更することはできません。2008年5月8日の消費税・法人税に関する裁決では、契約書で合理的に区分されていた内訳を、買主が固定資産税評価額の比率で計算し直す主張が認められませんでした。
一方、契約書に記載されていても安心しきれません。2022年9月9日の個人の不動産所得に関する裁決では、土地と建物の契約上の内訳が客観的な価値と比べて著しく不合理と判断され、固定資産税評価額の比率による算定が採用されています。
つまり、契約書は大事です。ただし、金額の根拠も大事。売主と買主がうなずき合っただけで、税務上の合理性まで完成するわけではないのです。
総額しかないときは、資料を集めてから分けます
契約書が「土地建物一式」で内訳を示していない場合は、取得時の価値を踏まえた区分を検討します。
その建物に課税された消費税額が明らかなら、適用税率から建物代金を計算できる場合があります。国税庁の手引きにも、この計算方法が示されています。ただし、取引時期に応じた税率や経過措置を確認する必要があります。
「消費税額の記載がないから建物はゼロ」という意味にはなりません。売主の課税関係も確認しましょう。
ほかには、土地・建物それぞれの価値を示す鑑定資料や固定資産税評価額などを検討します。固定資産税評価額を使う場合にも、物件の状況と照らして合理的かを確認します。評価額で分ければ、どんな物件でも自動的に正解、とはいえません。
ここでいう固定資産税評価額は、固定資産税の納税額ではありません。土地に住宅用地の特例が適用された後の課税標準額などを、評価額と取り違えないようにしてください。
減価償却費は、売る日の計算にも参加します
では、内訳を決めた後はどうなるのでしょう。次は個人の賃貸物件について、税務上の取得価額が合計6,000万円と適切に確定している仮定の例です。取得時の諸費用や消費税の個別計算、特例は省略します。
| 項目 | 土地 | 建物 | 合計 |
| 取得価額 | 4,000万円 | 2,000万円 | 6,000万円 |
| 売却までの減価償却費の累計 | なし | 800万円 | 800万円 |
| 売却時の取得費 | 4,000万円 | 1,200万円 | 5,200万円 |
この物件を6,500万円で売り、譲渡費用が300万円なら、譲渡所得は「6,500万円-5,200万円-300万円=1,000万円」です。
買った金額6,000万円をそのまま差し引いて「利益は200万円」とすると、過去の減価償却800万円が計算から抜けてしまいます。賃貸期間中に必要経費となる償却分は、売却時の取得費から差し引かれるためです。
減価償却によって手元資金を確保しやすくなる効果はあります。ただ、保有中と売却時では税率や税金のかかり方が違います。経費が増えた年だけを見て、最終的な得失まで決めないことが大切です。
契約前に「なぜ、この内訳か」を一枚に残しましょう
買う前に、土地・建物の内訳、計算に使った資料、物件固有の事情をまとめておきましょう。たとえば、評価時点の違い、大きな増改築、建物の劣化状況などです。仲介会社から説明を受けた場合も、計算表や根拠資料を残します。
そのうえで、予定保有年数までの減価償却費と、想定する売却時の取得費を試算します。将来の売値は確定しませんが、どの数字が税額を動かすかは見えてきます。
契約に押印してから「建物の金額、もう少し何とかなりませんか」と慌てるより、購入前の確認がずっと楽です。大家さんが持ち帰りたいのは、都合のよい内訳より、後から説明できる内訳です。
参考資料
[1] 国税不服審判所 平成20年5月8日裁決。合理的に区分された売買契約書の内訳と、固定資産税評価額による再按分の主張。
[2] 国税不服審判所 令和4年9月9日裁決。個人の不動産所得に係る建物の購入代価。契約内訳の合理性と固定資産税評価額比による算定。
[3] 国税庁「令和6年分 譲渡所得の申告のしかた」参考1、21〜23ページ。土地・建物の取得価額の区分、消費税額からの計算、業務用建物の償却費相当額。































