「家族に役員報酬を払えば、会社の経費が増えますよね?」

資産管理会社をつくると、気になる話です。では、その報酬と引き換えに、どんな仕事を任せましょうか。ここを具体的にできると、税務の説明がしやすくなるだけでなく、大家さん自身の仕事も減らせます。せっかく会社からお金を出すなら、経営にも働いてもらいたいですよね。

月に数日の役員でも、見るのは仕事の実態

非常勤だから、役員報酬がすべて法人税の経費にならない、というわけではありません。一方、登記に名前があるだけで、支払額がすべて認められるわけでもありません。

役員給与には、定期同額給与などの支給方法の要件があり、要件を満たしていても不相当に高額な部分は損金に入りません。金額の判断では、職務、会社の収益、従業員給与、同業で規模の近い会社の支給状況などが問題になります。

出勤日数だけを数えて終わりにせず、何を判断し、どの責任を担っているのか。ここまで説明できるかが大切です。「月に何日ならいくらまで」という全国共通の料金表はありません。

「経営の相談相手」を、具体的な仕事に翻訳する

たとえば、18室の賃貸住宅を持つ会社で、家族の役員に募集条件と修繕予算の検討を担当してもらうとします。毎日事務所に来なくても、次のように役割を決められます。

担当する仕事の例 経営に役立つ点 残しておきたい記録
空室の募集条件を月1回見直す 空室期間や募集費用を検討できる 管理会社の報告、検討メモ
修繕の見積りと工事範囲を確認する 不要な工事や比較漏れを減らせる 相見積り、採用理由
翌月の支払いと預金残高を確認する 資金不足に先回りできる 資金繰り表、確認履歴

これは役割づくりの例です。表を作っただけで報酬が認められる、という意味ではありません。実際に担当し、その過程で生まれた資料を残しましょう。

過去の裁決でも、非常勤役員がよい相談相手だという説明について、具体性や裏付けなどが問題になりました。 「家族だから口頭で済ませた」が積み重なると、数年後には説明がぼんやりします。会議後の短いメモでも、当日の判断を残す習慣には意味があります。

年96万円の報酬なら、会社から年96万円が出ていく

仮に月8万円を検討すると、年間の現金支出は96万円です。これは説明用の金額で、適正額の目安ではありません。

法人税の負担が減る場合でも、報酬そのものが会社に戻ってくるわけではありません。会社の預金、受け取る家族の税負担、必要に応じた社会保険の扱いまで合わせて検討します。非常勤という呼び名だけで、源泉徴収や社会保険の結論を出さないことも大切です。

そして、支払い方も先に決めます。現金の報酬を「半年分まとめて払えば、月額は同じだから定期同額」と考えるのは早計です。非常勤役員への年1回・年2回の給与は、月額を基礎に計算していても、そのことだけで定期同額給与にはなりません。別の要件で損金算入できるかを確認する必要があります。

「忙しいから振込みは年末に一度で」。事務は楽でも、税務の検討が一段増えることがあります。報酬額と支払予定は、実行前にセットで確認しましょう。

今月は、家族会議に物件の数字を一枚持ち込む

まずは、空室、修繕予定、資金繰りを一枚にまとめて、誰が何を担当するか話し合ってみてください。仕事の内容が決まれば、必要な時間や責任も見えてきます。

報酬を決める際は、職務内容と実際の活動、会社の規模・収益、金額の根拠、決議と支給方法を税理士に共有しましょう。既に支払っている場合は、期中に自己判断で増減する前に相談してください。

家族の役員が、毎月「今、この部屋はどうする?」と数字を見てくれる。そんな体制までつくれれば、報酬は物件経営を支える支出になります。まず決めたいのは、給与の数字を支える仕事の中身です。

参考資料

[1] 国税庁「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」、法人税法34条、法人税法施行令70条。

[2] 国税不服審判所・平成17年12月19日裁決(非常勤取締役の適正報酬額)。個別事案の判断であり、認定額を他社の基準として使うものではありません。

[3] 国税庁「9 役員給与等」(平成18年度改正に係る通達解説。非常勤役員に対する年俸・期間俸の説明)。