「今月は残高に余裕がある。設備を一つ、入れ替えておこうかな」

その前に、敷金の残高を一度見てみませんか。

通帳には、家賃も敷金も同じように並びます。でも、返す約束のある敷金まで利益のつもりで使うと、退去が重なった月に「あれ、お金はどこへ?」となりかねません。

今回は、個人の大家さんの預り敷金と、手元資金の見方のお話です。

預かったときも、返したときも、利益は増減しません

返還する義務のある敷金は、本来は預り金です。受け取っただけで不動産所得の収入にはなりません。

例えば、返還義務のある敷金6万円を受け取ったときは、銀行預金と「預り敷金」という負債が6万円ずつ増えるイメージです。その6万円をそのまま返すなら、預金と負債が6万円ずつ減ります。返還額そのものを修繕費などの経費にする処理ではありません。

受け取ったときに売上へ、返したときに経費へ。こう処理すると、利益が預り金に振り回されます。敷金には、帳簿の中にも専用の席を用意してあげましょう。

残高120万円を、少しだけ分解してみます

10室分の預り敷金が各6万円ある、という架空の例です。すべて返還義務のある残高として、資金にどれだけ余裕があるかを見ます。

資金の内訳 金額
通帳の残高 120万円
預り敷金の残高 6万円×10室 ▲60万円
別に確保しておきたい近日中の支払い ▲25万円
この計算で残る金額 35万円

120万円を全部「使えるお金」と見るのと、35万円を出発点に考えるのとでは、設備投資の判断も変わりますね。

もちろん、全室の敷金を明日返すと決まっているわけではありません。この表は、預り敷金と他の支払予定額を差し引く慎重な管理例です。会計上の利益でも、法令で定められた準備額でもありません。さらに修繕や納税に備える資金も、別に検討します。

「敷金」と書いてあっても、全部が預り金とは限りません

契約上、最初から返還しない部分や、一定期間の経過などで返還しないことが確定する部分は、その内容に応じた時期に収入へ計上します。退去するまで、ずっと預り金のままにできるとは限りません。

確認するのは、契約書の名前だけでなく、返還義務がある金額と、返還不要になる条件です。

退去精算では、返す金額、家賃などの債務へ充てる金額、契約上返還不要となる金額を分けます。原状回復費用への充当は、費用の内容と負担区分もセットで整理してください。請求内容や特約の有効性に争いがあるなら、その部分は要確認です。

なお、既に収入計上し、貸倒れなどの処理をしていない未収家賃への充当は、その家賃をもう一度収入にする処理ではありません。貸倒処理や収入減額後の回収は別途確認します。精算書の合計だけを見ると、こうした違いを見落としやすくなります。

管理会社には、全室分の敷金一覧をお願いしましょう

見たいのは、部屋番号ごとの契約額、現在の預り残高、返還不要部分の条件、過去の精算です。その合計が帳簿と一致しているかも確認します。

敷金を管理会社が預かっているのか、大家さんの口座に入っているのかも、併せて確認してください。買ったときに前の所有者から引き継いだものは、売買時の精算書も探してみましょう。

別口座で管理する方法もありますが、まずは一覧と帳簿を合わせるところから。通帳の数字が大きく見える日ほど、「このうち、返す予定のお金はいくら?」と一言聞いてみてください。

 

参考資料

[1] 国税庁「返還を要しない敷金等に係る提出時期」(2025年8月1日現在の法令・通達等)

[2] 国税庁「所得税基本通達」36-6、36-7

[3] 国土交通省「民間賃貸住宅に関する相談対応事例集(再改訂版)」(2022年3月)135〜138頁