「保険会社から入金がありました。これは全部、雑収入でいいですか?」

少し待ってください。反対に、「個人の保険金は非課税だから、帳簿では何もしなくていいですよね」も、まだ早いんです。通帳には同じ「保険金」と表示されても、中身まで同じとは限りません。

今回は、個人で賃貸経営をしている大家さんの所得税のお話です。法人の処理とは分けて考えてください。

入金額より先に、何を補うお金なのか

建物そのものの損害に対する保険金は、原則として所得税が非課税です。ただし、必要経費を補う部分や、家賃収入の代わりになる部分には、別の扱いがあります。所得税法施行令30条と94条が、その区別を定めています。

保険金が補うもの 所得税を考えるときの出発点 確認する資料
建物そのものの損害 原則非課税。ただし他の補償が混ざっていないか確認 損害の査定書、支払明細
修繕費など、必要経費になる支出 必要経費を補填する部分は非課税の対象から除かれる 費用補償の明細、工事内容、請求書
事故で失われた家賃収入 家賃の代わりになる補償は、不動産所得の収入 家賃補償の対象期間、計算明細

つまり、「保険金」という名札だけでは、税務処理は決まりません。宅配便の箱に「荷物」と書いてあっても、中身は分からないのと同じですね。

保険金の査定に修理見積書が使われていても、それだけで費用の補填と決まるわけではありません。「損害保険金」「費用保険金」という商品上の名称も、税務上の区分と同じとは限らないため、約款と支払内容から確認します。

例えば100万円が入っても、建物の損害、費用の補償、家賃の補償がそれぞれいくらなのかを確認します。この100万円は説明用の仮定で、税額や節税効果を示すものではありません。

修理代を払ったから、全部その年の経費とも限りません

ここが、もう一つの確認ポイントです。

「保険金は非課税。修理代は全額経費。よし、完了!」と処理する前に、その保険金が必要経費を補うものに当たるかを見てください。必要経費を補填する部分まで一律に非課税として扱うことはできません。

一方で、受け取った保険金の全額を、機械的に修繕費から差し引けば済むわけでもありません。補償の対象、費用の内容、権利や金額が確定した時期を合わせて確認します。

さらに、工事で建物の価値を高めたり、使用できる期間を延ばしたりする部分は、資本的支出として減価償却する場合があります。建物自体の資産損失を計上するケースも、保険金との関係を別に確認します。

修理の見積書だけを税理士に送るより、保険会社の支払明細も一緒に渡す。これだけで、確認の出発点がずいぶん変わります。

保険会社には、この聞き方をしてみてください

「今回の支払いは、建物の損害、修理などの費用、家賃の補償に分けると、どうなっていますか。内訳が分かる資料をもらえますか?」

保険会社には補償内容を、税理士にはその内容に基づく税務処理を確認します。保険会社に税額まで判断してもらう必要はありません。

保険証券、支払通知、査定の内訳、工事見積書と請求書を一組にし、税務上の区分が分からない部分は「要確認」として残しましょう。事故日、補償内容が確定した日、入金日、工事の完了日もあると、年をまたいだときの整理に役立ちます。

受け取るべき保険金を受け取り、支出と税金を正しく整理する。そのために最初に開くのは、通帳の次のページより、保険会社の明細です。

 

参考資料

[1] e-Gov法令検索「所得税法施行令」第30条、第94条

[2] 税務大学校論叢第81号「損失発生と損失補填を巡る所得税法上の諸問題」(2015年)367頁。補助的な研究資料であり、通達ではありません。

[3] 国税庁「所得税基本通達」第37条関係(資本的支出と修繕費)

[4] 国税庁「所得税基本通達」第51条関係(固定資産等の損失)