親からアパートを相続し、初めて家賃収入を申告することになったとき。相続税の申告書に書かれた建物の金額を、そのまま減価償却の計算に使えばよいのでしょうか。

結論からいうと、通常の相続では、その方法は使いません。原則として、親の取得価額や未償却残高などを引き継いで計算します。ここでは、限定承認という特別な相続方法は除いて説明します。

相続税の評価と毎年の経費は計算の目的が違う

相続税評価額は、相続税を計算するための財産の評価額です。
一方、減価償却は、建物などの取得費用を、その使用に応じて各年の経費に配分する仕組みです。

そのため、相続した時点の評価額に置き換えて、建物の取得費用を最初から経費にしていくことはできません。

相続による賃貸用建物の減価償却では、取得価額、耐用年数、経過年数、未償却残高を引き継ぎます。「未償却残高」とは、取得費用のうち、まだ減価償却されていない金額のことです。

親が3,000万円で取得した建物なら

例えば、親が購入した建物について、相続時点の数字が次のようになっていたとします。
土地の金額は含めていません。

項目 金額
親の建物取得価額 3,000万円
相続時までの減価償却累計額 2,000万円
相続時の未償却残高 1,000万円
建物の相続税評価額 1,500万円

 

この場合、取得価額3,000万円と未償却残高1,000万円などを引き継いで、その後の減価償却を計算します。相続税評価額の1,500万円を新しい取得価額にするわけではありません。

また、未償却残高1,000万円を、相続した年にまとめて経費にできるわけでもありません。
その年の償却費は、適用される方法や耐用年数、貸付期間などに基づいて計算します。

相続によって、すでに経費になった部分をもう一度経費にすることはできない、と考えると分かりやすいでしょう。

中古物件として耐用年数を設定し直せるわけではない

中古アパートを購入した場合には、一定の方法で中古資産の耐用年数を算定できることがあります。
しかし、通常の相続で引き継いだ建物について、同じように耐用年数を短縮して計算し直すことはできません。

ただし、引き継ぐ数字があるからといって、親の減価償却明細をすべてそのままコピーすればよいというわけでもありません。

償却方法については、相続による取得時の法令に照らした確認が必要です。国税庁も、取得価額と未償却残高を引き継ぎながら、相続人には定額法が適用される例を示しています。

相続した年は、親の亡くなった日までの申告と、相続人の申告を分けて整理するため、償却期間の確認も必要になります。

引き継ぐのは物件だけではない

まずは、親の前年分の確定申告書と青色申告決算書などを探してください。減価償却の明細、固定資産台帳、購入時の契約書、大きな改修工事の資料も重要です。さらに、亡くなった年の帳簿や家賃明細、支払資料も集め、前年末から相続時までの変動を確認します。

建物本体と設備、後から行った資本的支出が別々に管理されている場合もあります。相続税の申告書だけでは、毎年の家賃収入の申告に必要な情報がそろわないことがあるのです。

なお、親が青色申告をしていても、その承認が相続人に自動で引き継がれるわけではありません。新たに承認が必要な方の申請期限は相続の時期によって異なり、例えば親の死亡日が1月1日から8月31日までなら、原則として死亡の日から4か月以内です。

相続の手続きは、相続税の申告が終わればすべて完了、とは限りません。家賃収入の申告と必要な届出まで、早めに確認しておきましょう。