東雲結子「見守り体制、できました。受付は私、駆け付けも私、責任者も私!」

管理担当「東雲さん、一人三役ですね。お休みの日は?」

東雲結子「代理の私が出ます」

管理担当「その方、今日の東雲さんとそっくりですが」

東雲結子「よく言われます」

管理担当「では、東雲さんが旅行に行くと、全員不在ですね」

東雲結子「たった一人で全社休業……。人員配置からやり直します!」

入居者さんのために、自分が何でも引き受ける。東雲さんの気合いは十分ですが、本人が休むと受付も駆け付けも止まる体制では、安心して外出できません。誰に何を頼めば日々の暮らしを支えられるか、費用も含めて考えてみましょう。

高齢の方の入居を検討するとき、年齢だけで断ると、条件が合う人との契約機会を逃すかもしれません。一方で、有料サービスを全部付ければ経営が安定するとも限りません。必要な役割を確認し、誰が担うか、いくらかかるかまで決めることが出発点です。

安心サービス、全部盛りにする前に。心配を三つに分けよう

まず、心配の中身を分けましょう。家賃の支払いなのか、本人と連絡が取れない場面なのか、階段や玄関の使いやすさなのか。同じ「高齢者の入居」という相談でも、対策は変わります。

家賃については、本人の収入・資産の状況や、家賃以外に必要な住居費を含め、継続して払える見通しを確認します。家賃6万円でも、共益費や追加サービスの本人負担が月5,000円なら、住居費は少なくとも6万5,000円です。大家さんが受け取る家賃だけでなく、本人の毎月の負担を見るわけです。

連絡については、普段の連絡方法、連絡先に頼める範囲、管理会社の受付時間を確認します。住みやすさについては、本人の希望を聞き、必要な範囲で支援者や専門職とも相談します。年齢から身体の状態や必要な支援を決めつけないことが大切です。

管理会社には、最近の問い合わせや内見で、どの条件が障害になったかも聞いてみてください。入居を検討する人がいない場所で「高齢者向け」の看板だけ増やしても、看板は家賃を払ってくれません。地域の需要と物件の条件を先に合わせます。

緊急連絡先に、保証人まで兼務させていませんか?

緊急連絡先として名前を届け出ただけで、家賃の支払義務を引き受けたことにはなりません。保証契約は書面またはその内容を記録した電磁的記録が必要です。2020年4月1日以後に新たに結ぶ、賃貸借から生じる不特定の債務を個人が保証する契約(個人根保証契約)では、個人が負担する上限の「極度額」を定めなければ効力を生じません。

親族の電話番号をもらって安心し、その方をいつの間にか経理担当へ配属しないようにしましょう。国土交通省の標準契約書も、緊急連絡先と保証業者を別に整理しています。

役割 契約・了承で確認すること 見落としやすい境界
緊急時の連絡 本人・連絡先の了承、連絡順、頼めること 連絡先だけでは家賃保証にならない
家賃等の保証 対象債務、上限、免責、報告期限、更新料 あらゆる費用が無制限に保証されるわけではない
見守り・現地対応 異変の通知先、夜間対応、出動条件と料金 通知するサービスと、駆け付けるサービスは別
建物の管理 鍵の扱い、設備不具合、管理会社の対応範囲 生活支援や医療判断まで含むとは限らない

見守りを頼むなら、「異変の通知を受けたあと、誰が何をするか」まで確認します。全員が「誰かが行くだろう」と思っていると、連絡網には架空のスーパー担当者が登場します。名前だけ立派で、出勤日は未定です。

既存の管理契約と追加サービスを並べ、重複する業務と不足する業務を確認してください。保証料、見守り料、出動費の支払者も区別します。本人負担に変更すれば大家の支出は減りますが、本人の住居費は増えます。契約しやすさと支払継続の見通しも一緒に見直す必要があります。

手すりをポチる前に、玄関から一緒に歩こう

「高齢者向けだから手すり」という順番より、本人が気にしている場所を確かめるほうが、予算を使う場所が定まります。国の2019年改修ガイドラインは、本人の意向や現況調査を踏まえた検討を示し、賃貸住宅への援用も想定しています。

確認する場所 本人と確かめたいこと 発注前の確認
道路から玄関 階段や坂、荷物を持ったときの経路 室内の工事で解決できる問題か
玄関・廊下 段差、照明の位置、扉と収納の動き 寸法、通路を狭めない配置
トイレ・浴室等 出入口や動作する場所、本人の希望 施工業者等による設置位置・強度の確認

通路に張り出した収納棚を残したまま手すりを増やしては、棚が通行審査官になってしまいます。設備の追加だけでなく、配置の見直しで改善できる点も探しましょう。身体の状態に合わせた判断や施工方法は、必要な専門職・施工業者と確認します。

費用は、建物の不具合を直すために必要な修繕と、募集のために追加する改修を分けます。必要な修繕を採算だけで先送りする趣旨ではありません。追加工事なら「この不便が改善すれば、この部屋を検討しやすくなる」という関係を確かめてから見積りを取ります。

募集資料も改修後の写真に更新します。「玄関に手すりあり」「入口まで階段あり」など事実を示し、一部の改修だけで住宅全体が段差のない状態になったと誤解されないようにしてください。

空室を2か月減らしたのに、増えたお金は400円?

ここからは、募集開始後の24か月を比べる架空の例です。家賃は月6万円、入居中の管理料は家賃の5%。受け入れを見直さない案では、最初の3か月が空室、その後21か月は同じ家賃で入居すると仮定します。

見直す案では、募集のための追加改修8万円、支援サービスの初期費用6,000円、入居中だけ月1,200円のサービス料を、すべて大家さんが負担します。家賃は上げません。保証料など、これ以外の費用の差はない仮定です。

空室が1か月減ったときに増える家賃から管理料を引くと、6万円×95%=5万7,000円。ただし、早く入居してもらうほど、その期間のサービス料も増えます。

空室が短くなる期間 24か月中の入居月数 見直さない案との収支差
変わらない 21か月 ▲11万1,200円
1か月 22か月 ▲5万5,400円
2か月 23か月 +400円
3か月 24か月 +5万6,200円

例えば2か月短縮の場合、増える家賃12万円から追加の管理料6,000円、改修8万円、初期費用6,000円、サービス料2万7,600円を引くと、400円です。満室に近づいた喜びは大きくても、電卓は小銭のところで静かに止まります。

両案で同じ費用は比較から除いており、税金、借入返済等を引いた物件全体の最終利益ではありません。追加出動、保証料の増額、工事の追加があれば、その分だけ結果は悪くなります。空室短縮も予測ではなく、判断のために置いた条件です。

見積りに丸を付ける前に、「ここまでなら回収できる」を計算

この例で2か月の短縮を見込むなら、管理料控除後の増収11万4,000円から、サービス初期費用6,000円と23か月分2万7,600円を引いた8万400円が、追加改修費の損益分岐点になります。

見積り8万円は、そのほぼ上限です。追加工事が少し出たり、入居が想定より遅れたりするだけで収支差はマイナスになります。「予算8万円だから8万円まで使う」ではなく、効果が弱かった場合も見て、余裕を残したいところです。

逆に、本人が必要としない設備を外し、追加改修が4万円で済むなら、同じ2か月短縮の条件で収支差は4万400円になります。これは手すりを減らせばよいという話ではありません。必要な対策を絞ることが、支出と本人の納得を両立するという意味です。

比較を変える条件も確認します。周辺需要があり早く契約できるのか、追加料金が入居中ずっと続くのか、設備は次の入居者にも使えるのか。すでに空室の短い物件では、さらに短縮できる余地は小さくなります。全室へ一律導入する前に、一室で費用と反応を記録する方法が現実的です。

契約書に書いて終わり? その連絡網、今日もつながりますか

最後に、管理会社と「担当、対応時間、追加料金、次の連絡先」を一枚にまとめます。緊急連絡先には、その役割に了承してもらったかを確認し、本人の情報を誰に何のために共有するかも説明します。連絡が取れることと、依頼を引き受けていることを混同しないようにしましょう。

入居後は、連絡先変更の受付方法、機器を使うなら作動確認や故障時の対応、サービスの更新料を管理予定に入れます。日常の管理で本人が電話に出ないからといって、自由に入室できるわけではありません。通常の立入りと緊急の必要がある場合を区別し、実際の契約と状況に従って対応します。

一定期間後に見るのは、問い合わせ・内見・申込みの数、契約までの日数、追加の実費です。支援を加えたのに申し込みが増えないなら、家賃や立地、募集先が合っていない可能性もあります。

高齢の方に貸すかどうかを考えるとき、漠然とした不安を、確認できる条件と費用へ置き換えてみてください。本人にとって使いやすく、大家さんにとって続けられる体制になっているか。そこまで確認できれば、受け入れの判断にも、投資する金額にも根拠が持てます。

 

参考資料

[1] 国土交通省「高齢期の健康で快適な暮らしのための住まいの改修ガイドライン」(2019年3月28日公表)。本人の意向、専門家相談、現況調査、賃貸住宅への援用、玄関等への配慮事項。 / 関連資料

[2] e-Gov法令検索「民法」第446条、第465条の2、および法務省「賃貸借契約に関する民法のルールが変わります」(2020年4月1日施行の改正解説)。保証契約の方式、個人根保証の極度額。施行前からの契約への適用は個別に確認。 / 関連資料

[3] 国土交通省「賃貸住宅標準契約書 平成30年3月版・家賃債務保証業者型」(2018年3月版、2024年12月の注意点等追加を含む)。頭書(5)(6)、第16・17条、頭書解説。標準書式であり、実際の契約にそのまま適用されるものではない。