東雲結子:石井先生、こたつでみかんをむくとき、私はヘタの反対側、おへそから派です。先生は?
税理士石井:私はヘタの側からですね。……おっと、東雲さん、白い筋まで1本ずつ全部取るんですか。
東雲結子:もちろんです! 筋まで取ってこそ、みかんの本当の姿が見えるんです。
税理士石井:ははは、決算書を注記まで読む人の発想ですね。では今日は、2006年からの不動産を筋まで取ってみましょう。日銀は2006年7月にゼロ金利をやめて0.25%前後に、2007年2月には0.5%前後に上げました。上げ幅は合わせて0.5ポイントです。
東雲結子:0.5ポイントなら、みかん半分くらいの話ですよね。不動産はびくともしなかったのでは?
税理士石井:うーん、それがですね……東証REIT指数は2007年5月31日に2,612.98の最高値をつけて、2008年10月28日には704.46(複数の資料による)。7割以上下がりました。
東雲結子:ええっ、みかん半分のつもりが、こたつごと持っていかれました(汗)。
税理士石井:しかも、むけていく順番があるんです。毎日値段がつくREITが先に下がり、年に1回の地価公示が下がったのは2009年1月1日時点から。外側の皮から順に、という感じです。
東雲結子:じゃあ犯人は、0.5%の利上げで決まりですね!
税理士石井:そう決めつけるのは、まだ早いんです。2008年9月にはアメリカでリーマン・ブラザーズが破綻し、日銀は10月と12月に利下げしています。大家さんの物件も、査定額が変わるのは年に一度でも、買いたい人の指値は毎日変わりますよね。何がいつ効いたのかを、時間の順に確かめていきましょう。
連載「過去の金利動向から読み解く、今後の不動産価格」の第3回は、2006年から2008年です。日銀が量的緩和をやめ、2回の利上げで政策金利を0.5%前後にした時期で、東京圏の商業地を中心に地価が上がった、いわゆる2007年の「ミニバブル」と、2008年のリーマン・ショック前後の急落が続きました。この記事では、2006〜2008年の地価公示で東京圏の商業地が3年続けて上がった局面を、ミニバブルと呼んでいます。
上げ幅はわずか0.5ポイントです。それなのに、東証REIT指数は最高値から7割以上下がり、地価公示も2009年1月1日時点から下落に転じました。この回の問いは、「0.5%までの利上げで何が起きたのか」、そして「それは金利だけで説明できるのか」です。日本銀行の公表文、地価公示、東証REIT指数、不動産投資家調査の期待利回り、不動産価格指数、東京商工リサーチの倒産集計を、時間の順に並べて確かめます。
数字の定義を先にそろえておきます。地価公示(国土交通省)は毎年1月1日時点の価格で、変動率は公表された対前年平均変動率です。複数年の変化は、公表された前年比を当ブログがつないだ計算(近似)です。不動産価格指数(国土交通省、2010年平均=100、全国)は、住宅が2008〜2012年の原系列(季節調整をしていない値)、商業用不動産が季節調整値です。東証REIT指数は2003年3月31日=1,000の指数で、分配金を含まない値動きを表します。期待利回りは日本不動産研究所の不動産投資家調査の値(調査の時点は本文と表に記載)、10年国債利回りは内閣府の長期経済統計の年末値(新発10年国債の利回り)です。
2006年の量的緩和の解除から、2回の利上げで0.5%へ
まず、日銀の決定を並べます。
| 決定日 | 内容 | 無担保コールレート(翌日物)の誘導目標 | 採決 |
| 2006年3月9日 | 量的緩和の解除(操作目標を当座預金残高から金利へ戻す) | 概ねゼロ% | 賛成7・反対1 |
| 2006年7月14日 | ゼロ金利の解除・利上げ | 0.25%前後 | 全員一致 |
| 2007年2月21日 | 利上げ | 0.5%前後 | 賛成8・反対1 |
| 2008年10月31日 | 利下げ | 0.3%前後 | 賛成4・反対4(議長の裁定) |
| 2008年12月19日 | 利下げ | 0.1%前後 | 賛成7・反対1 |
| 2010年10月5日 | 包括的な金融緩和 | 0〜0.1%程度 | 全員一致 |
※日本銀行の各公表文による。2006年7月14日の採決は金融市場調節方針についてのもの。
用語メモ:量的緩和=日銀が、金利ではなく銀行が日銀に預ける当座預金の残高を目標にして、大量のお金を供給する政策。日本では2001年3月から2006年3月まで続きました。無担保コールレート(翌日物)は、銀行どうしが担保なしで翌日まで貸し借りするときの金利で、日銀の政策金利です。
2006年3月に量的緩和をやめ、7月に0.25%前後、翌年2月に0.5%前後。最初の利上げから2回目まで、約7か月です。ここで止まり、2008年10月には利下げに転じています。
銀行の貸出の金利も、少し遅れてついていきました。
| 年末 | 政策金利の誘導目標 | 短期プライムレート(都市銀行の最頻値) | 10年国債利回り |
| 2005年 | 量的緩和(金利の目標なし) | 1.375% | 1.47% |
| 2006年 | 0.25%前後 | 1.625% | 1.67% |
| 2007年 | 0.5%前後 | 1.875% | 1.50% |
| 2008年 | 0.1%前後 | 1.675% | 1.16% |
| 2009年 | 0.1%前後 | 1.475% | 1.28% |
| 2010年 | 0〜0.1%程度 | 1.475% | 1.11% |
※短期プライムレートは日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」(2006年8月24日に1.625%、2007年3月20日に1.875%、2008年11月17日に1.675%、2009年1月13日に1.475%)。10年国債は内閣府「長期経済統計」の年末値。
短期プライムレートは、2001年3月からの1.375%が、2006年8月に1.625%、2007年3月に1.875%へ。政策金利とほぼ同じ0.5ポイントの上昇です。一方、10年国債利回りの年末値は2006年の1.67%がいちばん高く、2007年末は1.50%に下がっていました。長い金利は、2007年のうちにもう下を向いていたことになります。
大家の借入に置きかえると、仮に1億円の借入の金利がそのまま0.5ポイント上がれば、年50万円の利息の増加です(元本の返済を考えない単純計算、当ブログの計算)。決して小さくはありませんが、これだけで物件の値段が7割下がる話ではありません。
2007年のミニバブル、東京圏の商業地は3年で24%上がった
では、地価です。
| 年(1月1日時点) | 全国 住宅地 | 全国 商業地 | 全国 全用途 | 東京圏 住宅地 | 東京圏 商業地 |
| 2005年 | −4.6% | −5.6% | −5.0% | −3.2% | −2.5% |
| 2006年 | −2.7% | −2.7% | −2.8% | −0.9% | +1.0% |
| 2007年 | +0.1% | +2.3% | +0.4% | +3.6% | +9.4% |
| 2008年 | +1.3% | +3.8% | +1.7% | +5.5% | +12.2% |
| 2009年 | −3.2% | −4.7% | −3.5% | −4.4% | −6.1% |
| 2010年 | −4.2% | −6.1% | −4.6% | −4.9% | −7.3% |
| 2011年 | −2.7% | −3.8% | −3.0% | −1.7% | −2.5% |
| 2012年 | −2.3% | −3.1% | −2.6% | −1.6% | −1.9% |
| 2013年 | −1.6% | −2.1% | −1.8% | −0.7% | −0.5% |
| 2005→2008年(連鎖) | −1.3% | +3.3% | −0.8% | +8.3% | +24.0% |
| 2008→2012年(連鎖) | −11.8% | −16.6% | −13.0% | −12.1% | −16.7% |
※国土交通省「令和7年地価公示」参考資料の対前年平均変動率。連鎖は当ブログの計算。
東京圏の商業地は、2006年に+1.0%と、バブル崩壊のあとで初めて上がりました。2007年+9.4%、2008年+12.2%。2005年から2008年までの3年で、合わせて24.0%の上昇です(当ブログの計算)。東京圏の住宅地も同じ3年で+8.3%でした。
ところが、全国の住宅地は2005年から2008年でみると−1.3%と、ほとんど上がっていません。2007年が+0.1%、2008年が+1.3%で、全国平均ではようやく下げ止まった程度でした。同じ「ミニバブル」でも、上がったのは東京の、それも商業地が中心だったわけです。バブル期の1988年に東京圏の商業地が1年で+61.1%上がったのと比べると、「ミニ」と呼ばれるのもうなずけます。
そして2009年1月1日時点で、すべての系列が下落に転じました。2008年から2012年までに、東京圏の商業地は16.7%、全国の住宅地は11.8%下がっています(当ブログの計算)。東京圏の商業地でいえば、3年で上がった分の大半を4年で返した形です。
J-REITは2007年5月31日に最高値、地価公示のピーク(2008年1月1日時点)より7か月早かった
地価公示は年1回の値です。毎日値段がつく市場では、もっと早く、もっと大きく動いていました。
用語メモ:J-REIT(ジェイリート)=投資家から集めたお金でオフィスや住宅などの不動産を買い、家賃収入を分配する、証券取引所に上場した不動産投資信託。東証REIT指数は、その値動きをまとめた指数です。
| 指標 | ミニバブルの頂点 | リーマン・ショックのあと |
| 東証REIT指数 | 2,612.98(2007年5月31日、算出開始以来の最高値) | 704.46(2008年10月28日、算出開始以来の最安値、複数の資料による) |
| 期待利回り 丸の内・大手町のAクラスオフィス | 3.8%(2007年10月の調査、危機前の最低) | 4.5%(2009年7月・10月、2010年4月の調査) |
| J-REITの分配金利回りと10年国債利回りの差 | 2007年1〜8月は最大でも1.8ポイント(二次資料による) | ― |
※東証REIT指数はアセットマネジメントOne、楽天カード「みんなのマネ活」の資料による(二次資料)。2008年10月28日の最安値を879.02とする資料もある。期待利回りは日本不動産研究所の調査を、ニッセイ基礎研究所の資料と日本不動産研究所『不動産調査』で確認した値。
東証REIT指数は、2007年5月31日に2,612.98の最高値をつけ、2008年10月28日に704.46まで下がりました。−73.0%、期間にして約1年5か月です(当ブログの計算)。最初の利上げ(2006年7月14日)から最高値までは約11か月、2回目の利上げ(2007年2月21日)からは3か月あまりでした。
地価公示のピークは2008年1月1日時点(東京圏の商業地+12.2%)で、最初の利上げから約18か月あとです。J-REITは、それより7か月も早く天井をつけていました。地価公示は年1回の値なので、実際の地価の天井には前後1年ほどの幅がありますが、それでも、下落が数字に表れたのはJ-REITが先でした。ここが、冒頭の「むけていく順番」です。毎日値段がつく市場が先に動き、年に1回の鑑定評価がそのあとを追う。不動産の値動きを見るとき、私はいつもこの順番を頭に置いています。
もう一つ、表の3行目を見てください。2007年1〜8月のJ-REITの分配金利回りと10年国債利回りの差は、最大でも1.8ポイントでした(二次資料による)。同じ資料は、指数が2,000前後だった2007年の分配金利回りを約3.4%としています。国債より少し高いだけの利回りで、価格は高値圏にあった。ここに、小さな利上げでも揺れやすい素地があったと私は見ています(当ブログの見方)。
キャップレートが3.8%から4.5%に上がると、価格は約16%下がる計算
用語メモ:期待利回り(キャップレート)=投資家が、その不動産に期待する利回り。家賃などの純収益÷価格で、利回りが上がると、同じ収益でも価格は下がります。イールドギャップは、この利回りと10年国債利回りの差です。
丸の内・大手町のAクラスオフィスの期待利回りは、2007年10月の調査で3.8%まで下がり、そこから上がって、2009年7月・10月、2010年4月の調査では4.5%でした。
純収益(家賃から経費を引いたもの)が変わらないとすると、価格は利回りに反比例します。3.8%から4.5%への上昇は、3.8÷4.5−1で約−15.6%の価格の変化にあたります(当ブログの計算)。逆に、価格を保つには純収益が約18.4%増える必要があります(4.5÷3.8−1、当ブログの計算)。
ここで、2007年の利回りと国債の差も見ておきます。2007年10月の3.8%と、同じ月の10年国債利回り1.616%(経済協力開発機構〔OECD〕の月次の値)の差は、2.18ポイントでした(当ブログの計算)。家賃が伸びないまま、投資家が国債との差をもっと求めるようになれば、価格は下がります。
大家業の言葉にすると、「家賃は同じなのに、買い手が求める利回りが上がった」状態です。たとえば表面利回り7%で売れた物件が、8%でないと売れなくなる。家賃が1円も下がっていなくても、売り値は下がります。丸の内のオフィスの期待利回りが3.8%から4.5%へ上がったのは、この動きを示しています。
リーマン・ショックの年、国内でも不動産会社の大型倒産が続いた
まず海外の動きです。米セントルイス連邦準備銀行の金融危機の年表は、2007年8月9日に仏BNPパリバが傘下の3つのファンドの解約を停止し、2008年9月15日にリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが米連邦破産法11条の適用を申請した、と記録しています。
国内では、リーマン・ブラザーズの破綻の前から、不動産会社の大型倒産が出ていました。東京商工リサーチの集計を並べます。
| 時期 | 東京商工リサーチの集計・記述 |
| 2008年8月 | 上場企業のアーバンコーポレイション(広島県、不動産流動化事業・マンション分譲、負債約2,558億円)と創建ホームズ(東京都、戸建・マンション分譲、負債約339億円)が民事再生法の適用を申請。上場企業の倒産は8月末時点で2008年の累計12件。負債100億円以上の大型倒産は建設業と不動産業を中心に12件(前年同月3件) |
| 2008年9月 | 上場企業の倒産が月間で最多の7件。リーマン・ブラザーズ証券(東京都)が負債3兆4,314億円で民事再生法の適用を申請(歴代2番目の大型倒産) |
| 2008年度(2008年4月〜2009年3月) | 上場企業の倒産は45件で、年度として戦後最多。不動産業の倒産は625件(前年度480件、30.2%増) |
※東京商工リサーチ「全国企業倒産状況」2008年8月度・9月度・2008年度。負債は百万円単位の公表値を億円に換算(当ブログ)。
この表は倒産の件数と負債を並べたもので、ここから一社ごとの倒産の原因までは読み取れません。ですから、「利上げのせいで倒れた」とも、「海外の危機のせいで倒れた」とも、この表からは言えません。当時の銀行の不動産業向け融資がどれだけ細ったのかを示す一次資料の数字も、この記事の資料では確かめられていません。
それでも、順番ははっきりしています。2007年5月にJ-REITが天井をつけ、8月にパリバのファンドが解約を止め、2008年8月に国内の不動産会社の大型倒産、9月にリーマン・ブラザーズ。日銀が利下げに転じたのは、そのあとの10月31日です。
日銀は2008年10月31日の公表文で、「米欧の金融危機に端を発する世界経済の調整は、最近、一層厳しさを増している」と述べています。そのうえで、国際金融資本市場での緊張が著しく高まる状況で流動性の供給などの措置をとってきたことに続けて、政策金利を引き下げ、緩和的な金融環境の確保を図ることが必要と判断した、と説明しています。
住宅の価格は約1割、商業用不動産は約2割下がった
価格の下がり方を、国土交通省の不動産価格指数で確かめます。指数は2008年4月(商業用は2008年4〜6月期)から始まるので、そこを出発点にします。
| 系列 | 出発点 | 2009年の最も低い月(商業用は全期間の最安) | 変化率 |
| 住宅総合 | 107.9(2008年4月) | 97.3(2009年10月) | −9.8% |
| 住宅地 | 112.1(2008年4月) | 96.8(2009年12月) | −13.6% |
| 戸建住宅 | 108.9(2008年4月) | 97.4(2009年4月、10月も同じ値) | −10.6% |
| マンション(区分所有) | 102.0(2008年4月) | 93.9(2009年6月) | −7.9% |
| 商業用不動産総合(四半期、季節調整値) | 120.2(2008年4〜6月期) | 98.1(2012年1〜3月期) | −18.4% |
※国土交通省「不動産価格指数」。住宅は2010年平均=100の原系列(2015年10月28日公表版)、商業用は2025年12月26日公表版の季節調整値。変化率は当ブログの計算。
住宅総合は2008年4月から2009年10月までに9.8%、商業用不動産総合は2008年4〜6月期から2012年1〜3月期までに18.4%下がりました(当ブログの計算)。商業用は2009年10〜12月期までの1年半で16.4%下がり、そこから2012年まで底ばいが続いています。住宅地は2009年のあとも下がり続け、2012年12月の94.5が最も低い値でした。戸建住宅も2012年4月に97.2と、2009年の安値をわずかに下回っています。
住宅の下落は、J-REITの−73.0%と比べればずっと小さく見えます。ただ、住宅の指数は実際の取引価格をもとにした指数で、J-REITは証券市場で毎日つく値段です。同じ「不動産」でも、借入を使って投資用に組まれた器ほど、値動きは大きくなる。これも、この時代がはっきり見せてくれたことの一つだと思います(当ブログの見方)。

図は、上から3段で2005年から2013年を並べたものです。上の段は政策金利(無担保コールレートの誘導目標、決定日)で、2006年3月までの量的緩和の期間は灰色、2006年7月の0.25%前後、2007年2月から2008年10月までの0.5%前後、2008年10月の0.3%前後、12月の0.1%前後を経て、2010年10月の0〜0.1%程度へ下がっていきます。赤い点線が2008年9月のリーマン・ブラザーズの破綻です。真ん中の段は東証REIT指数で、途中の値は載せず、高値2,612.98(2007年5月31日)と安値704.46(2008年10月28日)の2点だけを結び、−73.0%(約1年5か月)と書き込んでいます。下の段は地価公示の前年比(各年1月1日時点)の棒で、オレンジが東京圏の商業地、緑が全国の住宅地です。東京圏の商業地は2006年の+1.0%、2007年の+9.4%、2008年の+12.2%と伸び、2009年に−6.1%、2010年に−7.3%へ。全国の住宅地は2008年の+1.3%が上昇のいちばん大きな年で、2009年に−3.2%、2010年に−4.2%でした。
「0.5%の利上げ」が原因だったのか、順番に並べてみる
ここまでの出来事を、一つの表にまとめます。
| 時点 | 金利・市場の出来事 | 不動産の価格 |
| 2006年3月9日 | 量的緩和の解除 | ― |
| 2006年7月14日 | 0.25%前後へ利上げ(1回目) | ― |
| 2007年1月1日 | ― | 地価公示 東京圏の商業地+9.4% |
| 2007年2月21日 | 0.5%前後へ利上げ(2回目) | ― |
| 2007年5月31日 | ― | 東証REIT指数が最高値2,612.98(1回目の利上げから約11か月) |
| 2007年8月9日 | 仏BNPパリバが傘下ファンドの解約を停止 | ― |
| 2007年10月 | ― | 丸の内のオフィスの期待利回りが3.8%(危機前の最低) |
| 2008年1月1日 | ― | 地価公示 東京圏の商業地+12.2%(1回目の利上げから約18か月) |
| 2008年8月 | ― | アーバンコーポレイション、創建ホームズが民事再生法の適用を申請 |
| 2008年9月15日 | リーマン・ブラザーズが米連邦破産法11条の適用を申請 | ― |
| 2008年10月28日 | ― | 東証REIT指数704.46(複数の資料による) |
| 2008年10月31日 | 0.3%前後へ利下げ | ― |
| 2008年12月19日 | 0.1%前後へ利下げ | ― |
| 2009年1月1日 | ― | 地価公示 全国の全用途平均−3.5%、東京圏の商業地−6.1% |
| 2009年10月 | ― | 不動産価格指数 住宅総合97.3(2008年4月比−9.8%) |
| 2012年1〜3月期 | ― | 商業用不動産総合98.1(2008年4〜6月期比−18.4%) |
この順番から、当ブログは次のように読んでいます。
利上げが無関係だったとは思いません。J-REITの最高値は2回目の利上げから3か月あまりあとで、利回りと国債の差は1.8ポイント以内という薄さでした。わずかな金利の変化でも、利回りの「すき間」が小さい市場には効きます。
けれども、下げの深さは、0.5ポイントの利上げだけでは説明がつきません。J-REITが最安値をつけたのは、日銀がまだ0.5%前後を続けていた時期ですが、それはリーマン・ブラザーズの破綻から約6週間後のことでした。そして日銀が利下げに転じたあとも、地価公示は2009年から下がり、住宅の価格指数は2009年10月、商業用は2012年1〜3月期まで下げています。日銀自身も、2008年10月の公表文で世界経済の調整を「米欧の金融危機に端を発する」ものと説明していました。
私の見方では、2007年以降の下落は、利回りのすき間が小さくなったところへ、海外から信用の収縮が押し寄せたことで深くなりました(当ブログの見方)。金利が上がらなくても、お金の出し手が手を引けば、不動産の値段は下がる。金利だけで説明できない例として、この時代はとても大事だと思います。
この時代から今に持ち帰れること:利回りのすき間と、外から来る信用の収縮
最後に、2007年と2025年末を並べてみます。
| 項目 | 2007年(危機の前) | 2025年末 |
| 政策金利 | 0.5%前後(2007年2月21日決定) | 0.75%程度(2025年12月19日決定、12月22日から) |
| 10年国債利回り | 1.50%(2007年末) | 2.070%(2025年12月30日の終値) |
| 丸の内・大手町のオフィスの期待利回り | 3.8%(2007年10月の調査) | 3.2%(2025年10月の調査) |
| 期待利回り−10年国債利回り | 2.18ポイント(2007年10月の国債利回りと比べた当ブログの計算) | 1.13ポイント(10月の調査の利回りと12月30日の国債で比べた当ブログの計算、時点が違う) |
| J-REITの分配金利回り−10年国債利回り | 最大1.8ポイント(2007年1〜8月、二次資料) | 約2.4ポイント(2025年12月24日、二次資料) |
| 東証REIT指数 | 2,612.98(2007年5月31日の最高値) | 2,023.80(2025年11月28日) |
| 地価公示 東京圏の商業地 | +12.2%(2008年1月1日時点) | +8.2%(2025年1月1日時点) |
※期待利回りは日本不動産研究所の不動産投資家調査。J-REITのスプレッドはマネックス証券の解説記事(二次資料)による。
ここからは、すべて当ブログの見方です。
一つ目は、利回りのすき間です。丸の内のオフィスの期待利回りは、2025年10月の調査で3.2%と、2007年の3.8%より低い水準にあります。一方で10年国債利回りは、2007年末の1.50%より高い2.070%(2025年12月30日)。期待利回りと国債の差は、時点の違いを承知で比べると、2007年10月の2.18ポイントに対して1.13ポイントです(10月の国債で測っても1.55ポイント)。J-REITの分配金利回りと国債の差は、2024年末の4ポイント超から約2.4ポイント(2025年12月24日、二次資料)まで縮まり、2007年の1.8ポイントに近づいてきています。日本銀行も2025年10月の金融システムレポートで「賃料は上昇してきているものの、不動産リスクプレミアムを示唆するイールドスプレッドの低下傾向は続いており」と書いています。すき間の薄さという点では、今は2007年に似てきた、と私は見ています。
二つ目は、時間差の物差しを当てはめすぎないことです。2006年の利上げでは、J-REITの天井まで約11か月、地価公示の天井まで約18か月でした。2024年3月のマイナス金利の解除(最初の利上げ)からは、2025年12月末で約21か月がたちましたが、2025年の地価公示は全国の全用途平均+2.7%、東京圏の商業地+8.2%、不動産価格指数のマンションは2024年3月から2025年9月までに+12.1%(季節調整値、当ブログの計算)と、下落はまだ確認されていません。東証REIT指数も、2025年12月24日時点で年初から約22%上がっていました(二次資料による)。過去の時間差で「そろそろ天井」と決めつけるのも、「もう過ぎたから大丈夫」と安心するのも、どちらも危ういと思います。
三つ目は、下げを深くしたのが、国内の金利より外から来た信用の収縮だったことです。2025年12月の政策金利0.75%から2025年11月の消費者物価(生鮮食品を除く総合、前年同月比3.0%)を引いた実質の政策金利は−2.25%(当ブログの計算)で、日銀は声明で「政策金利の変更後も、実質金利は大幅なマイナスが続き、緩和的な金融環境は維持される」と説明しています。ただ、2008年が教えてくれたのは、国内の金利が低いままでも、お金の出し手が一斉に慎重になれば、価格は下がるということでした。
大家として、そして住宅を買う人の立場で持ち帰りたいのは、「金利が上がったら」と「融資が細ったら」の二つを、別々に試算しておくことです。金利の上昇には、返済額の計算で備えられます。融資が細ることには、借り換えの時期を分散する、手元の資金を厚めにしておく、利回りと借入金利の差にどれだけ余裕があるかを確かめておく、といった形で備えるのが現実的だと思います。
これから見ていきたいのは、毎日値段がつくJ-REITの動き、4月と10月の不動産投資家調査の期待利回り、日銀の金融システムレポートが不動産向け融資と価格をどう書くか、そして海外の信用市場のニュースです。日銀は2025年12月19日の声明で、経済・物価情勢の改善に応じて「引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことになると考えている」と説明しています(2025年12月31日時点)。
バブルとその崩壊を取り上げる回、ゼロ金利・マイナス金利の13年を取り上げる回、投資用不動産の利回りとイールドギャップを取り上げる回、2026年以降の不動産価格を金利のシナリオで考える回もあわせてどうぞ。
※本記事は公表資料をもとにした情報提供を目的としたもので、特定の不動産や金融商品の売買、借入を勧めるものではありません。価格や金利のシナリオは当ブログが置いた前提による試算で、将来の価格や金利を予想・保証するものではありません。
※数値は各機関の公表資料をもとに当ブログが集計・計算したもので、四捨五入の関係で合計が合わない場合があります。金利・価格は2025年12月31日までに公表された値で、時点は本文・表に記載しています。税制は2025年12月31日時点の法令にもとづき、令和8年度税制改正大綱の内容は今後の法改正で決まります。
出典・参考
- 日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(日本銀行、2006年3月9日)https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2006/k060309.htm
- 日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(日本銀行、2006年7月14日)https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2006/k060714.pdf
- 日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(日本銀行、2007年2月21日)https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2007/k070221.pdf
- 日本銀行「金融政策の変更等について」(日本銀行、2008年10月31日)https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2008/k081031.pdf
- 日本銀行「金融政策の変更について」(日本銀行、2008年12月19日)https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2008/k081219.pdf
- 日本銀行「『包括的な金融緩和政策』の実施について」(日本銀行、2010年10月5日)https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/mpr_2010/k101005.pdf
- 日本銀行「長・短期プライムレート(主要行)の推移」(2001年以降の表、日本銀行)https://www.boj.or.jp/statistics/dl/loan/prime/prime.htm
- 内閣府「平成29年度 年次経済財政報告」長期経済統計 金融(内閣府、2017年)https://www5.cao.go.jp/j-j/wp/wp-je17/h11_data07.html
- 国土交通省 令和7年地価公示 参考資料「公示価格年別対前年平均変動率」(国土交通省、2025年3月)https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/content/001873097.pdf
- 「J-REITの市場動向(情報提供資料)」(アセットマネジメントOne、2025年12月)https://www.am-one.co.jp/pdf/report/15638/251225_JREITShijouDoukou.pdf
- 黒川ヤスヒト「東証REIT(リート)指数とは?不動産市場の動向と投資できるファンドを紹介」(楽天カード みんなのマネ活、2023年8月15日、2024年9月11日更新)https://www.rakuten-card.co.jp/minna-money/securities/stock/article_2308_00209/
- 松村徹「不動産投資市場の現状と見通し」(ニッセイ基礎研究所、2009年12月4日)https://www.nli-research.co.jp/files/topics/38503_ext_18_0.pdf?site=nli
- 御旅屋徹「日本の不動産市場の概要」『不動産調査』375(日本不動産研究所、2010年)https://www.reinet.or.jp/pdf/lib_375.pdf
- 日本不動産研究所 第53回 不動産投資家調査(2025年10月現在)(日本不動産研究所、2025年11月27日)https://www.reinet.or.jp/wp-content/uploads/2025/11/published-document_main_the-japanese-real-estate-investor-survey_202510.pdf
- 関大介「長期金利上昇下での2026年のJ-REIT価格見通し」(マネクリ、マネックス証券、2025年12月25日)https://media.monex.co.jp/articles/-/28482
- 国土交通省「不動産価格指数(住宅)(平成27年7月分)」(国土交通省、2015年10月28日)https://www.mlit.go.jp/common/001107373.pdf
- 国土交通省「不動産価格指数(平成30年4月・第1四半期分)」(国土交通省、2018年7月25日)https://www.mlit.go.jp/common/001246369.pdf
- 国土交通省 報道発表資料「不動産価格指数(令和7年9月・令和7年第3四半期分)」(国土交通省、2025年12月26日)https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001975562.pdf
- 東京商工リサーチ「2008年(平成20年)8月度 全国企業倒産状況」(東京商工リサーチ、2008年9月5日)https://www.tsr-net.co.jp/news/status/detail/1196341_1610.html
- 東京商工リサーチ「2008年(平成20年)9月度 全国企業倒産状況」(東京商工リサーチ、2008年10月7日)https://www.tsr-net.co.jp/news/status/detail/1196342_1610.html
- 東京商工リサーチ「2008年度(平成20年度)[4-2009.3] 全国企業倒産状況」(東京商工リサーチ、ページの日付2009年10月15日)https://www.tsr-net.co.jp/news/status/detail/1196535_1610.html
- Federal Reserve Bank of St. Louis’ Financial Crisis Timeline(Federal Reserve Bank of St. Louis〔FRASER〕、掲載日の記載なし)https://fraser.stlouisfed.org/timeline/financial-crisis
- OECD「Long-Term Government Bond Yields: 10-Year: Main (Including Benchmark) for Japan」(FRED、月次、IRLTLT01JPM156N)https://fred.stlouisfed.org/data/IRLTLT01JPM156N.txt
- 堀明希子「<J-REIT annual report 2008> 2008年の市場回顧と自律的回復への期待」(住信基礎研究所、2009年2月6日)https://www.smtri.jp/report_column/report/pdf/report_20090206.pdf
- 伊藤隆康「日本のREIT市場に関する実証分析―株価と金利の影響及び国際間における連動性の検証」(信託協会『信託研究奨励金論集』第34号、2013年11月)https://www.shintaku-kyokai.or.jp/archives/007/seikaronbun3408.pdf
- John Weinberg「Support for Specific Institutions」(Federal Reserve History、2013年11月22日)https://www.federalreservehistory.org/essays/support-for-specific-institutions
- 日本銀行「金融システムレポート(2025年10月号)」(日本銀行、2025年10月23日)https://www.boj.or.jp/research/brp/fsr/data/fsr251023a.pdf
- 日本銀行「金融市場調節方針の変更について」(日本銀行、2025年12月19日)https://www.boj.or.jp/mopo/mpmdeci/state_2025/k251219a.htm
- 「長期金利上昇2・070%」(共同通信、OANDA Lab転載、2025年12月30日)https://www.oanda.jp/lab-education/market_news/kn_2025123001000819/
- 総務省統計局 統計メールニュース1820(全国消費者物価指数 2025年11月分)(総務省統計局、2025年12月19日)https://www.stat.go.jp/info/mail/pdf/20251219_no1820.pdf































